ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿
われわれは貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、
チームワーク、自己開発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な
四つの基本的な能力を身につけることができる。
第一に、長い間マネジメント上の中心課題だったものがコミュニケー
ションである。企業、政府機関、軍、病院など、言い換えれば現代社会の
すべての組織においてコミュニケーションが大きな関心事だった。
しかし結果はまことにお粗末だった。コミュニケーションは、現代社会に
おけるその必要性と欠如に気がついた頃と同じように貧困なままである。
ようやく今日、コミュニケーションに関わる膨大な努力がなぜ成果を生み
出せないかが明らかになり始めたところである。
これまで研究されてきたのは、経営管理者から従業員へ、上司から部下
へという、下方へのコミュニケーションだった。だがコミュニケーションは
下方への関係において行われるかぎり事実上不可能である。
このことは、知覚についての研究が明らかにしたところである。
上司が部下に何かをいおうと努力するほど、かえって部下が聞き違える
危険は大きくなる。部下は、上司がいうことではなく、自分が聞きたい
ことを聞き取る。
ところが仕事において貢献する者は、部下たちが貢献すべきことを要求
する。「組織、および上司である私は、あなたに対しどのような貢献の
責任を期待すべきか」「あなたに期待すべきことは何か」「あなたの知識や
能力を最もよく活用できる道は何か」を聞く。こうして初めてコミュニ
ケーションが可能となり容易となる。その結果、まず部下が、「自分は
どのような貢献を期待されるべきか」を考えるようになる。
そこで初めて、上司の側に、部下の考える貢献についてその有効性を判断
する権限と責任が生じる。
経験によれば、部下が設定する目標は、ほとんど常に上司が考えている
ものとは違う。部下は現実を上司とは違うように見ている。
しかも有能であるほど、また進んで責任を保とうとするほど、現実や機会や
ニーズについての見方が上司のそれと違ってくる。
この違いはかなり大きい。
とはいえ、そのような違いはさして重要ではない。なぜならば、こうして
成果に結びつく意味あるコミュニケーションが確立されるからである。
第二に、果たすべき貢献を考えることによって、横へのコミュニケー
ションが可能となり、その結果チームワークが可能となる。
自らの生み出すものが成果に結びつくには、誰にそれを利用してもらう
べきかとの問いが、命令系統の上でも下でもない人たちの大切さを浮き
彫りにする。
それは、知識を中心とする組織のニーズからして当然のことである。
知識組織においては、成果をあげる仕事は、多種多様な知識や技能をもつ
人たちで構成されるチームによって行われる。彼らはフォーマルな組織
構造に従ってではなく、状況の論理や仕事の要求に従って、自発的に協力
して働く。
● フォーマル(formal)
[形動]正式なさま。公式なさま。形式的。儀礼的。
「―な会合」⇔インフォーマル。
この続きは、次回に。