ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+18
全章で紹介した大手チェーンストアの社長も、上司が「欠くことができ
ない」という者は、すべて自動的に異動させることにしていた。
「上司が弱いか、部下が弱いか、両方が弱いかのいずれかである。
いずれにせよ早く明らかにしなければならない」からだった。
実績によってある仕事に適任であることが明らかである者は、必ずその
仕事に異動させ、昇進させることを絶対のルールとしなければならない。
「欠くことができない」「あそこは受け入れないだろう」「若すぎる」
「現場の経験のない者を配置したことがない」などの反論は一蹴しなければ
ならない。
仕事には最適な者を充てなければならないだけではない。
実績を持つ者には、機会を与えなければならない。問題ではなく機会を
中心に人事を行うことこそ、成果をあげる組織を創造する道であり、献身と
情熱を創造する道である。逆に、際立った成果をあげられる者は、容赦
無く異動させなければならない。さもなければほかの者を腐らせる。
組織全体に対して不公正である。そのような上司の無能によって成果と
認知の機会を奪われている部下に対して不公正である。
何よりも本人にとって意味なく残酷である。実は本人が不適格であることを
知っている。仕事に不適切な者は、必ずや圧迫や緊張によって追いつめ
られ、本人自身が脱出をひそかに願っているものである。
日本の終身雇用制度や欧米の公務員制度が無能を異動の理由としていない
ことは、重大にして正当化しえない問題である。
この続きは、次回に。