ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+27
集中は、あまりに多くの仕事に囲まれているからこそ必要である。
なぜなら一度に一つのことを行うことによってのみ早く仕事ができる
からである。時間と労力と資源を集中するほど、実際にやれる仕事の
数と種類は多くなる。
最近引退したある製薬会社のCEOほど大きな成果をあげた人はいなかった。
社長に就任した頃、企業規模は小さく国内でしか事業を行っていなかった。
一一年後に引退したときには、世界のリーディングカンパニーになって
いた。
社長就任後の数年は、研究開発の方向づけや計画や人事に力を入れた。
それまでは、研究開発ではその他大勢としても遅れたほうだった。
彼自身は科学者ではなかった。しかし彼は常に五年遅れであっては駄目だと
考えた。独自に方向を決めていかなければならないとした。
その企業は五年後には二つの分野でリーダー的な地位を得た。
するとその社長はグローバル化に力を入れた。すでにいくつかのスイス
企業がリーダーとしての地位を築き上げていた。
彼は世界の医薬品の消費動向を分析し、どの国でも、健康保険と医療制度が
需要を動かしていることに気づいた。そこで彼は、海外進出のタイミングを
それぞれの国の医療制度の充実に合わせることによって、先発の各社と
競争することなく最初から大規模に事業を始めることができた。
最後の五年間、彼は各国の医療制度の変化に応じて経営戦略を変えていった。
当時すでに、世界中どこでも、医療は、医薬品の購入は個々の医師が
決めるが、支払いは政府や健康保険組合が行うという公益事業になって
いた。
一人のCEOがこのように大きな仕事を行うことはあまりない。
彼は大きな仕事を三つ行った。一時に一つずつ集中して行った。
これこそ困難な仕事をいくつも行う人たちの秘訣である。
彼らは一時に一つの仕事をする。その結果ほかの人よりも少ない時間しか
必要としない。成果をあげられない人のほうが多くの時間働いている。
この続きは、次回に。