ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+55
ベルの事業はサービスであるというヴェイルの決定も、サービスについての
業績評価抜きでは、意味のない言葉に終わったに違いない。
それまでベルの経営管理者は、自らの部門の利益率あるいは少なくとも
コストによって業績が評価されていた。
しかしこのヴェイルの定めた評価基準が、彼らに新しい目標を直ちに
受け入れさせた。
これと対照的に、ある歴史と由緒のある大企業の優れた会長兼CEOは、
組織構造や企業目標を変えてはみたものの、何ら成果をあげることが
できずに失敗した。誰もが改革の必要性は認めていた。
長年、業界においてリーダー的な地位にあったその会社は、老化現象を
示しつつあった。ほとんどあらゆる事業で、競争相手として登場してきた
攻撃的な中小の企業に負け始めていた。
しかしその会長は、新しい組織構造の中の目立つポスト、特に新設の三つの
副社長ポストに守旧派の代表格の人たちをつけてしまった。
それは、社内の人間にとっては「本当は改革をする気のない」ことを
意味した。
● 由緒
1. 物事の起こり。また、今に至るまでのいきさつ。いわれ。
「行事の―をたずねる」
2. 現在に至るまでのりっぱな歴史。来歴。
「―のある古寺」「―正しい美術品」
● 守旧派
昔からの習慣・制度などを守る勢力。保守派。
「―が巻き返しで改革が後退する」⇔改革派。
新しい方針とは逆の行動が報奨を受けるのであれば、みなが、それこそが
トップが本当に望み報いようとしている行動と受け取る。
誰でもが、ヴェイルと同じように行動し、意思決定の実施を決定そのものの
中に組み込めるわけではないかもしれない。しかし誰でも決定の実施に
必要な行動が何であり、命ずべき仕事が何であり、その実施にあたらせる
人として誰がいるかを考えることはできるはずである。
この続きは、次回に。