ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+54
意思決定を実施に移すための行動は、その行動をとるべき人たちの能力に
合ったものでなければならない。
ある化学品メーカーの在外法人が、西アフリカの二か国においてそれぞれの
政府から本国への送金を禁止された。そこでこのメーカーは、現地法人の
保有する資金の価値を守るために、その資金を現地経済に貢献しかつ
原材料輸入の必要のない事業に投資することにした。
しかも本国への送金が許可されるようになったときには、現地の投資家に
売却できるものに投資することにした。
幸い同社は、輸送中の痛みが激しいという問題を抱えていた果物の防腐の
ための簡単な化学処理法を開発していた。
この事業は両国で成功した。一方の国では西アフリカにはいないような
技術管理者によって事業を運営した。一方の国では、いずれ事業を運営
させることにしたい現地の人たちの能力を考え、化学処理の方法や事業を
簡単なものにし、現地の人間に任せた。
数年後両国政府とも本国への送金を許可した。しかし一方の国では、事業は
成功していたにもかかわらず買い手がつかなかった。現地には事業の管理や
技術の能力がなかった。そのため事業は精算された。
これに対しもう一方の国では、現地の企業家たちが事業の買い取りを希望
したため、相当の利益を加えて本国に送金することができた。
化学処理の方法や事業の運営は基本的に両国とも同じだった。しかし、
失敗した方の国では、誰も「この意思決定のもたらす結果を意味あるものに
する者として、どのような人間がいるか、彼らには何ができるか」という
問いを発しなかった。その結果、意思決定そのものが失敗した。
決定を実施に移し成果をあげるには、応々にして関係者が行動や習慣や
態度を変えることが必要になる。したがって、行動のための責任が明確に
され、責任を与えられた人たちが必要な行動をとれなければならない。
評価の基準、仕事の水準、動機を変えられなければならない。
さもなければ彼らは、心理的な葛藤によって行動できなくなってしまう。
● 応々にして
「往々にして」で「よく」「しょっちゅう」といった意味。
● 葛藤
1. 人と人が互いに譲らず対立し、いがみ合うこと。「親子の―」
2. 心の中に相反する動機・欲求・感情などが存在し、そのいずれを
とるか迷うこと。「義理と人情とのあいだで―する」
3. 仏語。正道を妨げる煩悩のたとえ。禅宗では、文字言語にとらわれた
説明、意味の解きがたい語句や公案、あるいは問答・工夫などの意
にも用いる。
この続きは、次回に。