ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+61
評価測定のための基準を見出す最善の方法は、すでに述べたように、
自ら出かけ、現実からフィードバックを得ることである。
つまるところこれは、決定前のフィードバックである。
例えば人事管理上の問題は、たいていの場合平均値を評価測定の基準に
している。社員一○○人当たりの平均事故率、平均欠勤率、平均病欠率で
ある。だが自分で出かけていって確認すれば、直ちに他の基準が必要な
ことに気づく。平均値は保険会社の役には立つが、人事の決定にとっては
意味がない。それどころか大きな間違いをもたらす。
事故の多くは工場の特定で起こる。欠勤の多くはいくつかの特定の部門で
起こる。欠勤はすでに周知のように、平均的に会社中で見られるものでは
なく、社員の一部、例えば若い未婚女性に多い。
平均値に依存していたのでは期待する成果を生むどころか事態を悪化させ
かねない。
自動車の安全についても、出かけていって確認しなかったことが、安全
設計の必要に早く気づけなかった主たる原因だった。
自動車メーカーは、走行距離当たり、あるいは一台当たりの平均事故率
しか基準にしていなかった。出かけいって見さえすれば、事故によって
受ける傷害の度合いを基準の一つに加えなければならないことを理解したに
違いない。そしてその結果、事故自体の危険度を小さなものにするための
対策、すなわち車の設計変更によって、交通安全運動を補う必要のある
ことをはっきり認識したに違いなかった。
評価測定のための適切な基準を見つけ出すことは統計上の問題ではない。
それはすでにリスクを伴う判断の問題である。
判断を行うためにはいくつかの選択肢が必要である。一つの案しかなく、
それにイエス、ノーをいうだけでは判断とはいえない。
いくつかの選択肢があって初めて、何が問題であるかについて正しい洞察を
得られる。したがって決定によって成果をあげるには、評価測定の基準に
ついてもいくつかの選択肢が必要である。それらの中から最も適切な基準を
選び出さなければならない。
投資計画にもいくつかの評価基準が考えられる。
第一に回収に要する時間があり、第二に利益率があり、第三に現在価値と
いう基準がある。
成果をあげる決定を行うには、いかに財務部門がこれだけが合理的な
評価基準であると主張しようとも、一つの基準で満足してはならない。
いかなる基準といえども、投資の一つの側面を示すにすぎない。
しかも、あらゆる基準を検討しなければ、いずれが最も適切かを知る
ことはできない。
したがっていかに財務部門が面倒がろうとも、三つの基準で計算するよう
要求しなければならない。
そうすることによって初めて、この問題についてはこの基準がよいという
ことがいえる。
選択肢全てについて検討を加えなければ、視野は閉ざされたままである。
この続きは、次回に。