ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+66
□ 意思決定は本当に必要かを自問する
最後に、意思決定は本当に必要かを自問する必要がある。
何も決定しないという代替案が常に存在する。
意思決定は外科手術である。システムに対する干渉でありショックの
リスクを伴う。
よい外科医が不要な手術を行わないように、不要な決定を行ってはなら
ない。
優れた決定を行う人も優れた外科医と同じように多様である。
ある人は大胆であり、ある人は保守的である。
しかし不要な決定は行わないという点では一致している。
何もしないと事態が悪化するのであれば行動しなければならない。
同じことは機会についてもいえる。急いで何かをしないと機会が消滅する
のであれば思い切って行動しなければならない。
電気通信事業の国有化の弊害についてヴェイルの考えは広く支持されて
いた。しかし、彼以外の者は戦闘に勝とうとしていた。
あれこれの法案に反対し、候補者の誰それを当選あるいは落選させようと
していた。
ヴェイルだけは、分の悪くなりつつある状況に勝つには、それらの対症
療法が効果のないことを理解していた。戦闘のすべてに勝っても戦争に
勝つことはできない。ヴェイルには、新しい状況をつくり出すためには、
大胆な行動が必要であることが明らかだった。
独占事業が民間企業として生き延びるには、国有化に対する有効な代案
として公的規制を使わなければならないことを理解していた。
● 対症療法
1. 病気の原因に対してではなく、その時の症状を軽減するために行われる
2. 根本的な対策とは離れて、表面に表れた状況に対応して物事を処理する
こと。「対症療法では問題は解決しない」
楽観的というわけではなく、何もしなくても問題は起こらないという状況が
ある。何もしないと何が起こるかという問いに対して、「何も起こらない」
が答えであるならば、手をつけてはならない。
状況は気になるが切実ではなく、放っておいてもさしたる問題も起こり
そうにないときは手をつけてはならない。
このことを理解している者は稀である。深刻な経営不振の中で合理化の
先頭に立つ役員は、さして意味のないことでも放っておくことができない。
合理化の対象は営業あるいは物流である。そこで懸命かつ賢明に、営業と
物流におけるコスト削減を成功させる。
しかし、効率的にうまく運営されている工場で、二、三人の年とった工員が
不必要に雇われていると指摘し、せっかくの合理化努力の成果と自分自身の
評判を台無しにしてしまう。二、三人の年とった工員を解雇してもたい
した合理化効果はないという意見を筋が通らないとして退ける。
みなが犠牲を払っているのに工場だけが非効率でよいのかという。
やがて危機が去ると、事業を救ったことは忘れられる。しかし、年とった
二、三人のかわいそうな工員に無慈悲だったことは忘れられることはない。
当然である。すでに二○○○年前にローマ法は、犠牲者は些事に執着する
べからずといっている。このことを学ぶべき意思決定者はまだ多い。
● 無慈悲
思いやりの心がないこと。あわれみの心がないこと。また、そのさま。
「―な(の)仕打ち」
● 些事(さじ)
取るに足らないつまらないこと。ささいなこと。小事。
「―にこだわる」
● 執着
一つのことに心をとらわれて、そこから離れられないこと。
「金に―する」「―心」
この続きは、次回に。