P・F・ドラッカー「創造する経営者」⑧
(6) 既存のものは古くなる
経営者が、時間の大半を今日の問題に使っているなどといういい方は、
婉曲話法にすぎない。正しくは昨日の問題に使っている。
過去の修正に使っている。
これは、ある程度避けられないことである。今日存在するものはすべて
昨日の産物である。今日の事業、すなわち、資源、活動、組織、製品、
市場、顧客は、すべて過去における意思決定と行動の結果である。
しかも、ほとんどの人間が、昨日の事業とともに育っている。
彼らの姿勢、期待、価値観は、昨日つくられた。したがって彼らは昨日の
教訓を今日使おうとする。事実、あらゆる企業が昨日起こっていたことを
正常と見なし、そのパターンに当てはまるものは異常として退ける傾向を
もつ。
しかし、いかに賢明かつ前向きで勇気のあった決定と行動も、それらが
普通の行為となり日常の仕事となったとしても、その姿勢を身につけた
人たちが意思決定を下す地位に昇進する頃には、その姿勢を形成させた
世界はもはや存在しなくなっている。
物事は、予想したとおりには起こらない。未来は常に違う。
しかし、将軍たちが昔の戦争に対して備えたがるように、企業人も昨日の
ブームや昨日の不況に対処しようとする。
既存のものは古くなる。あらゆる意思決定と行動がそれを行なった瞬間
から古くなり始める。したがって通常の状態に戻そうとすることは不毛で
ある。通常とは昨日の現実に過ぎない。
経営者の仕事は、昨日の通常を、変化してしまった今日に押しつける
ことではない。企業と、その行動、姿勢、期待、製品、市場、流通チャ
ネルを新しい現実に合わせて変化させることである。
● 婉曲法
婉曲法(えんきょくほう)とは一般に、否定的な含意を持つ語句を直接
用いず、他の語句で置き換える語法である。具体的には聞き手が感じる
不快感や困惑を少なくする目的で、あるいは話し手がそのような不都合や
タブーへの抵触を避ける目的で用いられる。
また語句自体が必ずしも不快でなくても、不快な概念を連想させるのを
避けるのに用いられる。また、聞き手にとって無意味もしくはかえって
不快と感じられれば、「ぼかし表現」として批判の対象となる。
婉曲法が礼儀正しさと同一視されることもあり、敬語として用いられる
言い回しも多い。また、悪いことばが不幸を招くという迷信(ことばに
婉曲法では、語句は多少なりとも文字通りの意味を離れ、メタファーの
性格を帯びる。
この続きは、次回に。