P・F・ドラッカー「創造する経営者」⑱
ある家庭用消耗品のメーカーは、アフターサービスのためには、ある製品を
家具店のような専門店で売らなければならないと考えた。
優れた製品であって評判もよかった。販促も順調だった。専門店のほうも、
経験のある店員を配置し陳列にも力を入れてくれた。
説明書も十分用意し万全を期した。しかし売上げは伸びなかった。
二か月ほどで消耗されるその製品には、家具店は間違った流通チャネル
だった。そのような製品は大衆消費財であって、大衆が買い物をする
ところで売らなければならない。家具店ではなく大量販売を志向する
大規模小売店でなければならない。
そのメーカーは、家具店に大衆を呼び寄せて買わせようとし、見事に失敗
した。しかしやがてこのメーカーも、今日のアメリカの市場では、大衆
流通が可能なのはスーパー、デパート、ショッピングセンター、ディス
カウントハウスなど大衆が買い物をする場所であることを認めた。
そこで製品を設計し直し、アフターサービスが不要なものにした。
そして大量流通と大量販売によって、製品の品質、消費者の満足、販売
促進の効果を実現した。
流通チャネルは重要であるばかりではない。そこには特有のきわめて複雑な
事情がある。流通チャネルは流通の経路であると同時に顧客でもある。
流通チャネルは、製品に適合すると同時に、市場、顧客、最終用途に適合
しなければならない。そしてなおかつ製品のほうが、顧客としての流通
チャネルと適合しなければならない。
もちろん、流通チャネルが製品や市場に合っていなければ失敗する。
製品は市場に到達しない。購入されないし、業績をあげることもない。
しかし、製品のほうが顧客としての流通チャネルに適合していなければ、
そして同時に、販売方針が流通チャネルに適合していなければ、顧客と
しての流通チャネルが買ってくれない。
普通、ブランド品の大衆消費財メーカーはこのことを承知している。
彼らは、主婦と小売店という異なる期待と要求を持つ二種類の顧客を
もっていることを知っている。しかし、大衆消費財以外のメーカーの
うち、このことを知るものはあまりない。
この続きは、次回に。