P・F・ドラッカー「創造する経営者」㉗
□ 製品のリーダーシップをもたらすもの
市場における製品のリーダーシップと見通しを分析するには、かなりの
労力と、長時間に及ぶ検討が必要である。経験のある経営者ならば、一見
簡単そうに見える表2も、そのような検討の結果を集約したものである
ことを知るに違いない(詳しくは五三〜五四ページで後述)。
この種の分析に対しては、かなり冷静な人でも怒り、理性的な人でも
「そう思わない」といって耳をかさないことがある。ということは、
それほど骨の折れる徹底的な分析が要求されるということである。
しかし、分析のための手法そのものは、VA(価値分析)から市場調査に
いたるまでよく知られたものである。中小企業でさえ何年も前から日常的に
使っているものである。すなわち、分析の結果は一部には受け入れられ
ないものとなる恐れがあるにせよ、分析の方法自体はよく知られたもので
ある。
もちろん、複雑な大企業の場合には、中小企業よりも分析結果の記述は
詳細なものとなる。定量的に記述できるものもある。しかし重要なのは、
どれだけ複雑な分析ができるかということでも、どれだけその結果を
定量的に示せるかということでもない。重要なのは考え方である。
しかも考え方は簡単である。
リーダーシップという言葉は定量的な概念ではない。最大のシェアをもつ
企業が本当にリーダーシップを握っているのは、実は市場のごく一部かも
しれない。製品あるいは市場において独占的な地位にあるならば、逆に
リーダーシップは握っていないということである。独占体ではリーダー
シップに握れない。
ある製品がリーダーシップを持つということは、市場や顧客のニーズに
最も適合しているということである。純然たるニーズに適合していると
いうことである。顧客が喜んで代価を払ってくれるということである。
生産者がいかに品質がよいと考えようとも、顧客がそう考えてくれなければ、
リーダーシップを握っているとは言えない。顧客がそう考えるということは、
競合店よりも優れた製品であるという評価を、進んで代価を払うという
具体的な形で表明してくれるということである。
独占者がリーダーシップを失うのは、顧客に選択権が与えられていない
からである。独占の顧客は、第二の供給者を待望する。
出現してくれさえすれば、そこへ群がり集まる。
いまは独占企業の商品やサービスに十分満足しているかもしれない。
しかし、長期の独占状態を経たのちにおいても顧客の支持を得ている
ような企業は、きわめて稀である。
したがって独占企業は、競争相手が現れた瞬間に、限界的な存在へと
変わる危険をもつ。このことは、誰でも知っているが誰にとっても受け
入れにくい事実である。しかし、事業の分析においては、競争相手からの
挑戦のない製品は危険な製品であるという認識が何よりも重要である。
市場シェアによってリーダーシップを判断するという通常の方法は間違いで
ある。シェアが最大でありながら小さな競争相手よりも利益率がはるかに
劣るという例はたくさんある。
この続きは、次回に。