P・F・ドラッカー「創造する経営者」㉘
市場シェアの優位は、利益をもたらさずにコストをもたらしがちである。
市場シェアの大きな企業は、あらゆる領域において事業を行おうとする。
しかしあらゆる領域において卓越した活動を行うことのできる企業など
存在しない。むしろ小さな特化した企業だけが、時として、自らのあらゆる
製品とサービス、あらゆる市場と最終用途、あらゆる顧客と流通チャネルに
関して、リーダーシップを握ることができる。
いかに大企業であろうと、あるいは逆にいかに小企業であろうと、限界的な
存在になったのでは生き残ることはできない。特に、主力製品、すなわち
売上げの大部分を占め、主たるコストの発生源となり、最も貴重な資源を
割り当てている製品においてリーダーシップを握らなければ生き残ることは
できない。市場が大きければ大きいほど、すれすれの限界的な存在である
ことは危険である。リーダーシップのない製品に生き延びる余地はない。
しかし実は、これまでの二○○年間における経済学者の教えにもかかわらず、
独占に代わるものは、産業への無数の参加、すなわち自由競争ではない。
それはごく少数のメーカーや供給業者間の競争、すなわち寡占である。
市場が大きくなるほど、新規参入には巨額の資本が必要となり、参入の
試みもほとんど行われなくなる。国内の全域を対象として売らなければ
ならなくなるからである。
市場が大きくなると、流通チャネルは、消費者に選択権を与えつつ、かつ、
彼らを混乱させたり課題な在庫を招いたりしない程度の数だけブランドを
採用するようになる。この理由から、例えばアメリカの冷蔵庫、ガスレンジ、
食器洗い機、洗濯機等の白物家電産業は、反トラスト法が何をいおうとも、
遅かれ早かれ六つほどの大手ブランドへと集約していくに違いない。
ディスカウントショップ、デパート、ショッピングセンターなどの大店舗が
客に選択権を持たせるには、五、六種のブランドがあれば十分である。
ブランドの数がそれ以上になると、客はかえって混乱し、買う気を失う。
しかも在庫が増える。ブランドの過多は、資金、売り場、倉庫を占領する。
修理のサービスを難しくする。訓練が必要となり、部品のスペアが必要と
なる。売り出しキャンペーンの費用が増え、しかも効果はあがらなくなる。
そのような状況のもとで小売業は、人気のないブランドのメーカーに努力の
上乗せを求める。価格の引き下げ、値引き、融資、販促費、中古の下取り
などを求める。当然、人気のないブランドの利益率は下がる。
そして、ひとたび景気後退が起こるとならば、限界的な存在のブランドは
簡単に脱落する。小売店が在庫を減らし人気ブランドに集中するように
なる。
この続きは、次回に。