P・F・ドラッカー「創造する経営者」㉙
市場が大きくなって成熟するほど、集中化が進むのは製品の差別化が進む
からである。市場が大きくなると限界的な製品やメーカーの存在の余地は
小さくなる。
このことは、特に今日、大衆市場が急速に発達しつつあるヨーロッパや
日本についていえる。ドイツやフランスという限定された国内市場において
リーダーシップを握っていた企業や製品が、統一されたヨーロッパ大陸の
大衆市場では急速に限界的な存在となっていく。
今日ヨーロッパにおいて、中堅企業特に同族会社間の国境を越えた合併や
提携が急速に進んでいるのはこのためである。
独占の形成に向かうものでさえなければ、それらのグループ化はきわめて
健全であり、ヨーロッパや日本における新しい大衆消費経済のもたらす
機会をとらえるうえで、真に必要とされるものである。
しかも市場の拡大は、特色ある製品やサービスに対し、それぞれの市場や
最終用途においてリーダーシップを握る機会をもたらしてくれる。
特殊化学製品の市場がその一例である。大手一般プラスチック製品の
メーカーを買い手とする市場の成長は、特殊化学品のメーカーにとって
売上げと利益の両面において大きな機会となる。
また例えば、インディアナ州コロンバスの中堅企業カミンズ社は、大型
トラックのエンジンメーカーとして、高い利益率を誇っている。
しかし、GMのような大メーカーが、バス、船舶、ディーゼル車など広範な
用途用に各種エンジンを供給していなかったならば、カミンズ社もその
成功の原因たる狭い製品ラインへの特化はできなかったに違いない。
その場合、多用途のエンジン出なければ売込みもアフターサービスも
できなかったであろう。
今日、いくつかの中小企業が特殊用途向けの低馬力モーターに特化し、
GE(ゼネラル・エレクトリック)やウェスチングハウスよりもよい業績を
あげている。GEやウェスチングハウスは、あまりに圧倒的な市場シェアを
占めているために、かえってあらゆる種類の顧客と最終用途向けにあらゆる
種類のモーターを供給せざるをえなくなっている。そのため、いくつかの
製品については限界的な存在になったり、赤字を出したりしている。
市場におけるリーダーシップは価格や信頼性によって実現される。
製品によっては、メンテナンスの容易さが決定的に重要になることもある。
あるいは、製品によってはメンテナンス不要の保証がリーダーシップを
もたらしてくれる。海底ケーブルがそうである。
あるいは、町から六○マイル離れ、着くまでに大吹雪に二度も遭うような
山頂に建てるマイクロウェーブ中継所がそうである。
さらには、市場においてリーダーシップを握るには、外観、スタイル、
デザイン、知名度、最終製品への組み入れコスト、サイズ、アフター
サービス、早期の引き渡し、技術指導などが、大きな役割を果たす。
しかし、メーカー自身が高品質と考えているだけでは何の役にも立たない。
メーカーがどう考えようとも、値段が高いだけで特に違うところや優れた
ところのない限界的な製品であったのでは、リーダーシップとはまったく
無縁である。高品質をうたっても、市場が認めてくれなければリーダー
シップは成立しない。顧客が喜んで買ってくれなければならない。
製品のリーダーシップとは、精神や美学ではなく、経済に関わる用語で
ある。
値段の安ささえ、製品のリーダーシップの基準ではない場合がある。
逆に顧客が値段ばかりいって、品質を考えてくれないとこぼすメーカーが
ある。しかし顧客は明確な選考基準をもっており、それに対して支払いを
する。メーカーがその選考基準を満足させていないだけである。
この続きは、次回に。