P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊶
(11) シンデレラ製品あるいは睡眠製品
これはチャンスを与えればうまくいくかもしれない製品である。
業績に見合う支援や資源を十分与えていない製品である。
表5に示されているように、製品Dがこの種の製品かもしれない。
表2(五三ページ)の市場でのリーダーシップについてのコメントが、なぜ
この製品の機会が生かされていないかを明らかにしている。
第一の原因は、利幅と利益の同一視という間違いである。利益とは利幅に
回転率を乗じたものである。しかも利幅の算出にあたっては、間接費は
売上高に応じてではなく、コストを発生させている作業量によって配分
しなければならない。さらにまた、原材料費の占める割合によって意味が
変わってくる。
利幅が一○ドル当たり一ドルの製品であっても、同一期間内に、利幅が
一○ドル当たり二ドルの製品よりも一○倍売れれば利幅は五倍である。
これは誰もが知っていることだが、利幅と回転率が併記されて初めて
思い出される。
第二の原因は、さらに重要かもしれない。すなわち、例えば製品Dは、
マネジメントのお気に入りの製品Bの売上げを横取りしているのかも
しれない。その場合には、製品Dの成功はマネジメントにとって脅威と
なる。
すなわち、シンデレラ製品は、今日の主力製品の市場を荒らし、その衰退を
早める製品であることがある。マネジメントといえども人間であって、
無視することによって不快な脅威が消えてくれることを望む。
そしてその結果、同業他社か、あるいはしばしば他産業の企業が、この
シンデレラを見つけて成功し、当該メーカーとその主力製品となるべき
だったものをともに置き去りにしてしまう。
一九五○年代初頭にトランジスタを開発したのは、真空管、特にラジオや
テレビ用の真空管によって利益をあげていたアメリカの企業だった。
トランジスタは真空管と同じ機能をもっていた。コストは安く、重さは
軽く、体積は小さく、電力も小さくてすむ真空管の代替品だった。
それは真空管にとって決定的な脅威だった。しかも代わりの事業は生まない
ものだった。そのような状況にあって、アメリカの大企業が、トランジスタを
時期尚早と考えたのは十分理解できることだった。
しかし日本の企業は失うものをもっていなかった。彼らは、トランジスタの
低コスト、軽量、小型、小電力という特性から、携帯用の小型ラジオを
つくれることを知った。彼らはアメリカでは時期尚早とされていたトラン
ジスタを使ってアメリカ市場向けの大きな事業を築いた。
もちろん、支援されずにいる新製品のすべてがシンデレラ製品ではない。
しかし支援を欠いているにもかかわらず予想以上の業績をあげている
製品ならば、シンデレラ製品である可能性がある。
そこには、資源的な支援の強化、特に配属すべき人材の質を上げるだけの
価値がある。とにかく、この種の製品は予想していたよりも大きな力の
あることを示している。
この続きは、次回に。