P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊾
トマト、豆、とうもろこしなどの缶詰を生産しているアメリカのある大手
食品メーカーでは、数年前まですべての資金需要を自己資金で賄っていた。
例えば、旬の時期に缶詰にして在庫にしておくために必要な資金は、
低金利による借り入れで賄えたにもかかわらず、自己資金を使って
数か月も寝かせていた。
そのためこの企業は、成長すればするほど収益性を悪化させ、ついには
倒産寸前までいってしまった。
同じように、季節的な二、三か月の在庫のために、長期手形を使い、一年中
利息を払っている企業も多い。ほとんど生産性のない、所有する必然性の
ない不動産に、担保付き借り入れや保険会社からの借り入れではなく自己
資本を投じたため、不動産貧乏になっている企業もよくある。
数条的な財務方針では誤りやすい。借金は一切しないという方針も、
借りられるだけ借りるという方針も、同じように間違いである。
正しい資金管理とは、経済の論理に従って適宜適切に資金を手当てする
ことである。間違った財務構造ほど高くつくものはない。
しかも間違った財務構造ほど、コストへの伝統的な取り組みやコスト削減
キャンペーンの手が及ばないものはない。
輸送費もまた、大きなコストセンターでありながら常に無視される。
コストが複数の企業の間に分散されているためである。輸送費の多くは
複数の企業の間で発生しているために、いずれの企業も注意を払おうと
しない。また、同一企業内の輸送費でさえ、ひとまとまりのコストでは
なく分散したコストとして隠される傾向がある。輸送や保管は独立した
活動ではない。そのためいろいろな項目に分けられ、雑費として処理される。
例えば、工場には、機械から製品が出てくる段階と、その製品を顧客へ
出荷する段階の間で発生するコストがある。切断、ラベル貼り、包装、
保管、移動等である。それらの活動は管理費として処理され誰も責任を
負っていない。
また、工場外での在庫のコストは、運転資金、すなわち資金費として
処理されている。
輸送費に対するコスト削減やコスト管理は、生産費に対するものよりも
早く効果をあげる。単にこれまであまりにもわずかな努力しか払われて
こなかったためである。
倉庫の搬出入は大きなコストポイントである。産業によっては消費者に
とってのコストの八%以上にのぼる。機械化された倉庫は別として、
労務費がコストを上昇させているからである。
工場ではIE(インダストリアル・エンジニアリング)を進めておきながら、
倉庫では、必要額の倍もの労務費を支出していることがある。
それらの倉庫では、貨車やトラックへの積み降ろしなど、一度に一人しか
働けない状況下で、三、四人のチームが仕事をしている。貨車には一人
しか入れないため、ほかの人間は外で待っている。そのようにして時間の
四○%から六○%が待ち時間として浪費されている。
そのような浪費は、もし工場内で起こっていたならば、はるか昔に発見
され改善されていたはずのものである。
この続きは、次回に。