P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-8
第6章❖顧客が事業である
□ 企業を外部から見る
製品や市場や流通チャネルなど業績をもたらす領域についての分析、利益や
資源やリーダーシップについての分析、コストセンターやコストポイントに
ついての分析など、事業そのものについての分析は、企業が「いかなる
状況にあるか」を教える。しかし、そもそも企業が「適切な事業を行って
いるか」をいかにして知るか。「わが社の事業は何か。何であるべきか」を
いかにして知るか。この問いに答えるには事業を外から見て分析することが
必要となる。
事業とは、市場において知識という資源を経済価値に転換するプロセスで
ある。事業の目的は顧客の創造である。買わないことを選択できる第三者が、
喜んで自らの購買力と交換してくれるものを供給することである。
そして、完全独占の場合を除き、知識だけが製品に対し事業の成功と存続の
究極の基盤たるリーダーシップの地位を与えてくれる。
しかし、事業の何に対して代価が支払われているかについて、内部から
知ることは容易でない。
自らを外部から見るための体系的な作業が必要である。
RCAのように経験豊かな企業さえ、一九四○年代に厨房機器産業に進出
したとき、冷蔵庫やガスレンジにつけた自社のトレードマークを消費者が
認知してくれるものと考えた。
もちろん、RCAは、ラジオやテレビについては最もよく知られたトレード
マークだった。そしてRCAにとっては、冷蔵庫やガスレンジはラジオや
テレビと同じように家庭用器具だった。
しかし消費者にとっては、それらはまったく異質の製品だった。
RCAのトレードマークはガスレンジには通用しなかった。
やがてRCAは厨房機器産業から撤退を余儀なくされた。
もしこれがカメラだったならば、RCAのトレードマークは消費者に受け
入れられていたであろう。ところがRCAにとっては、カメラはまったく
異質の製品だった。
このような例は多い。メーカーにとっては同じ市場であり、同じ種類の
製品であるものが、顧客にとっては関係のない市場であり、異なる種類の
満足と価値を与える製品なのである。
しかも事業の内部からは、自らの卓越した知識さえ見ることができない。
彼らにとっては当たり前のものだからである。知っている仕事は易しい。
そのため、自らの知識や能力には特別の意味はなく、誰もがもっているに
違いないと錯覚する。逆に、自らにとって難しいもの、不得意なものが
大きく見える。
この続きは、次回に。