P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-19
(7) 潜在的な競争相手
予期せぬものを知るための次なる問いは、「競争相手になっていない者は
誰か。それはなぜか」である。
産業構造ほど急速に変化するものはない。しかし、企業の人間にとっては、
その時々の産業構造ほど、自然法則のように不変に見えるものはない。
電気製品メーカーの教会や食品店の協会の現在の会員が業界である。
しかし実際には、まったくの新規参入者が次から次へと、強力な競争相手と
なって現れてくる。顧客のニーズを満足させるうえでの競争相手となる。
すると直ちに、昨日まではあれほど強固に見えた産業構造が分解する。
そしてその新しい産業構造も、ひとまず落ち着くと再び不変のものと
考えられるようになる。
ここに二つの例がある。
印刷機メーカーは第二次世界大戦後、市場に現れた新しい事務用コピー機に
注意を払わなかった。コピー機は印刷用のものではなかったし、印刷業者に
売られてもいなかった。
ある印刷機メーカーなどは、コピー機の発明者からの提携の申し入れを
検討もせず断っていた。印刷機メーカーが、同業他社よりもはるかに危険な
競争相手が現れたという事実に目を覚まされたのは、印刷業者の伝統的な
仕事の多くが彼らの顧客たち自身の手によってコピー機で行われるように
なってからのことだった。
同じように、アメリカの肥料メーカーは自分たちを化学品メーカーと考え
ていた。しかし「まだ競争相手になっていないのは誰か。誰がいつ競争
相手になるか」という問いを発していたならば、直ちに石油会社そのものが
肥料産業に進出しない理由は何もないことが明らかになったはずである。
石油会社は、肥料にとって最も重要な原料であるアンモニアを天然ガスの
副産物として産出していた。しかも、石油会社は大量流通の専門家で
あって僻村にも販売網をもっていた。さらに五○年代後半には、石油会社が
そのコストのかかる巨大な販売網のための商品を必要としているという
ことがますます明らかになっていた。
しかし、アメリカのある大手石油会社がヨーロッパで肥料に進出したとき、
アメリカの肥料メーカーはそのようなことはアメリカでは起こりえない
とした。だが現実には、ある日突然アメリカの肥料産業の一部が石油産業に
よって奪われたのだった。
● 僻村
都会から遠く離れた村。へんぴな村。僻邑 (へきゆう) 。
(8) 潜在機会
「まだ競争相手になっていないのは誰か」という問いから、次の問いが
論理的に出てくる。
「わが社は、誰の競争相手にまだなっていないか。わが社の事業の一部と
考えていないために、わが社には見えていず、試みてもいない機会はどこに
あるか」という問いである。
この続きは、次回に。