P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-21
□ 顧客の現実を理解する
一見不合理に見えても顧客の利益になっているものに代えて、メーカーが
合理性と考えるものを押しつけようとするならば、必ず顧客を失う。
少なくとも顧客は、そのようなメーカーの試みを経済力の濫用と感じる。
そして事実そのとおりである。
いずれにせよ、顧客の利益に反する行為に対しては、メーカーは結局は
高いツケを払わされることになる。
間もなくアメリカの医薬品産業が、その例になるかもしれない。
医師がブランドのついた薬を好むことは十分に合理的である。
現代の薬学や生化学は、医師、特に年輩の開業医の能力を超えて発達して
しまった。多忙な開業医にとって、薬剤の調合はあまりに複雑である。
したがって彼らはメーカーに依存する。
また、医師が薬剤の価格を気にしないことも合理的である。
ほとんどの場合、結局は医療保険が支払ってくれる。
患者のほうも、医師が薬代を節約してくれても特に感謝することもない。
こうして医師はブランドのついた薬を使うことになる。
そして事実、これが平均的な医師にとって効力の強い新薬を使いこなす
唯一の方法である。
しかし、医薬品メーカーにとっては自己の流通チャネルにおけるそのような
合理性が、最終消費者である患者の利益につながるようにすることこそ
責務である。にもかかわらず、医薬品メーカーは、医師の無知を利用して、
ブランドをつけた薬の価格を学術名のついた薬よりも高くし、誰かにその
ツケを払わせている。
やがてそのようなことに対しては懲罰的な措置がとられるおそれがある。
事実そのような危惧がすでに医薬品産業に近い関係者たちから表明されて
いる。そして万一、そのような措置がとられるならば、それは必要な
度合いや、望ましさの度合いをはるかに超えた極端なものとなるのが
常である。
これらの例が示すように、顧客の、不合理に見える側面を尊重しなければ
ならない。不合理に見えるものを合理的なものとしている顧客の現実を
見ることこそ、事業を市場や顧客の観点から見るための有効なアプローチで
ある。これこそ、市場に焦点を合わせた行動をとるための容易なアプロ
ーチである。
マーケティング分析は、市場調査や顧客調査をはるかに超えるものである。
すなわちそれは、第一に事業全体を見るものである。
そして第二にわが社の市場、顧客、製品ではなく、顧客の購入、満足、
価値、購買、消費、合理性を見ようとするものである。
● 濫用(らんよう)
一定の基準や限度を越えてむやみに使うこと。
「カタカナ語を―する」「職権―」
● 懲罰
こらしめのために罰を加えること。また、その罰。「違反者を―する」
この続きは、次回に。