P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-28
日本のある成功している化学品メーカーの社長は、自社の幹部一人ひとりに
対し、半年ごとに「この能力によってリーダーシップを維持しているという
前回の結論は、最近の経験でも実証されているか」と聞くことにしていると
いう。
この社長はそれぞれの市場や顧客について、自ら一つひとつの製品の実績を
分析し、前回の分析から得た予測や期待と実際の経験が合致しているか
どうかを見ていた。
しかも、研究担当役員から経理担当、人事担当の役員にいたる全経営幹部に
対し、同じ分析を行うことを命じている。そのうえ、この知識分析に、
年四回、三日間ずつ開かれる経営会議の一日を充てている。
こうして彼は、ニッチ分野の中小企業を、一○年足らずのうちに世界有数の
大手化学品メーカーにまで成長させた。
その秘訣は、知識の有効性とニーズについての絶えざる点検だったと確信
している。
最後に、いかなる企業も、多くの知識において同時に卓越することは
できない。ほとんどの人間と同じように、ただ一つの領域において、
単に有能であることさえ難しい。これは、ほとんどの企業が生き残る
だけでもやっとであり、かろうじて脱落を免れているにすぎないという
ことを意味している。このことは、数字からも明らかである。
新たに設立される企業一○○社のうちほぼ七五社が、マネジメントの失敗を
主たる原因として五年以内に倒産している。
多くの領域において卓越することはできない。しかも、成功するには、
きわめて多くの領域において並以上でなければならない。
いくつかの領域において有能でなければならない。
一つの領域において卓越しなければならない。
市場が経済的な報酬を与えてくれるような真の知識をもつためには、
集中が必要である。
● 学殖
学問によって身につけた知識。深い学識。「―豊かな人」
● 衒学
学問や知識をひけらかすこと。ペダントリー。
● 転化
ある状態・物が別の状態・物に変化すること。「戦況が―する」
● 卓越
群をぬいてすぐれていること。また、そのさま。「―した技術」
● 陳腐化
古くさいこと。ありふれていて、つまらないこと。また、そのさま。
陳套 (ちんとう) 。「―な表現」「―なせりふ」
この続きは、次回に。