P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-42
これらの例において重要なことは、GMやエジソンやロスチャイルド家が、
強力かつ偉大な存在になったということではない。
ほとんど無から出発していたということである。
一文なしのプロシア軍士官ジーメンス、学歴がなく耳の悪い使い走りの
エジソン、偏見に満ちた傲慢な貴族社会における田舎の洗練されざる、
しかもユダヤ人のロスチャイルド家、そして一八六○年の遅れた日本は、
すべて体系的なアプローチをもって無から出発していた。
GMですら、一九二○年当時すでにかなりの大企業ではあったが、フォ
ードに比べればはるかに差をつけられ、かろうじて二位の座にあるに
すぎなかった。
確かに、体系的なアプローチなしでも、ジーメンスやエジソンは傑出した
発明家となり、ロスチャイルド家は有名な金融業者となり、GMは大企業に
なったということはできる。しかし、それぞれの世界において、彼らは
リーダー的な地位を与えたのは、時代と環境がもたらしてくれた機会に
自らの能力を適用するうえで彼らが使った体系的なアプローチだった。
これらの三つのアプローチには、共通するものが一つある。
それは強みを生かすことである。問題ではなく機会を求めることである。
避けるべきリスクではなく実現すべき成果に重点を置いたということで
ある。
実は、この三つのアプローチは相互に補完的である。
それぞれのアプローチが、それぞれの機能と目的をもっている。
したがって、これらのアプローチを総合して利用することにより、本書で
述べてきた分析による洞察を効果的な行動へと変えることができる。
第一に、「理想企業の設計」によって方向性を決定することができる。
基本的な目標を設定することができる。さらには成果を評価するための
基準を設定することができる。
第二に、「機会の最大化」によって、昨日の企業を今日の企業へと変え、
明日のための挑戦に対する準備を行うことができる。
現在の活動のうち何を推進し何を放棄すべきかを知ることができる。
さらには、市場における成果や、知識を増大させるものが何であるかを
明らかにすることができる。
第三に、「人材の最大利用」によって、事業についての分析結果を行動に
移すことができる。人材を優先度の高いものに集中することによって最大の
成果をあげることができる。
● 洞察
物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと。
見通すこと。「人間の心理を―する」「―力」
この続きは、次回に。