P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-47
イノベーションは古いものに新しい次元を与える。
イノベーションとは、つながりのない部分的なものを、大きな力をもつ
統合されたシステムとして結びつける。
われわれは、このイノベーションのシステム的な側面をとらえて、ジー
メンスやエジソンは新しい産業を創造したといっているわけである。
そこには、唯一の要素を除いて、すでにあらゆる要素が存在していた。
彼らは、その唯一の新しい要素を加えることによって、まったく新しい
経済的能力を創造した。
シアーズ・ローバックは、農民に対し「事業を問わず返品可」を保証する
というイノベーションによって、その事業を築いた。
当時すでに、通信販売の成功のために必要な要素はすべて存在していた。
唯一欠けていたものが顧客を信用するというきわめて簡単な要素だった。
同じように、IBMがコンピュータ産業を創造したのは、技術的に高度で
複雑な機械と、技術的に訓練されていない顧客とのギャップを埋め、かつ
高校卒でも短期間に学ぶことのできる機能としてのプログラミングについて
イノベーションを行ったためだった。
スローンのイノベーションは、体系的に全市場をカバーする自動車メー
カーという考え方そのものにあった。それまでのGMは、あらゆる層を
顧客とする脈絡のない複数モデルのメーカーだった。ほかのメーカーも
同様だった。
アメリカン・モーターズは、大型車に慣れた人たちに対し、コンパクト
カーすなわち適切な空間と性能を与える車を提供するというイノベー
ションを行った。
イノベーションとは、発明や発見そのものではない。もちろん発明や発見の
いずれかが必要となることもあるが、焦点は知識そのものではなく成果に
合わせられる。したがってイノベーションは、規模が大きいほどよいの
ではない。逆に小さいほどよい。
繰り返すならば、イノベーションとは、既存の知識、製品、顧客のニーズ、
市場などすでに存在するものを、はるかに生産的な新しい一つの全体に
まとめるために、小さな欠落した部品を発見し、その提供に成功する
ことである。
イノベーションの機会を発見するには、すでに可能になっているにも
かかわらず欠落したままの致命的に重要なものは何か、経済的な効果を
一変させるものは何かを問わなければならない。
もちろん、ニーズを書き出すだけではニーズを満たしたことにはならない。
しかし、ニーズを書き出して初めて、必要な条件を知ることができる。
それらの条件を満たせるかどうかは、そのあとのことである。
イノベーションとは、企業の潜在的な機会を発見し、未来を築くための
ものである。しかし、まずイノベーションを利用すべきは、今日を十二分に
成果あるものとし、現在の企業を理想企業に近づけるための戦略としてで
ある。
この続きは、次回に。