P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-57
○ 生産的活動のアンバランス
相応の成果をあげていない生産的活動というアンバランスの典型は、
マーケティングと研究開発に見られる。
ここにマーケティングに割かれていたアンバランスな資源を機会として
利用した例がある。
ある中小企業は、一五○人という技術的に訓練された全国規模の営業陣を
抱えるには一五○○万ドルの売上げではあまりに小さすぎた。
利益をあげるには、営業スタッフ一人当たりの売上げを現在の一○万ドル
から五○万ドルにあげなければならなかった。
解決策が、メーカーにとどまることなく、流通業へとその業容を拡大する
ことだった。この企業は全国的な流通を必要とする中小のメーカーを
徹底的に調べた。そしてそれらのメーカーに対し、彼らの営業コストを
はるかに下回るコストで営業サービスを提供することを申し出た。
五年後この企業は、同じ営業陣で一億ドルの売上げを達成した。
自社製品は五分の一にすぎなかった。そのほとんどは競合関係にない
七社の製品だった。そしてそれらの七社もまた、それぞれ売上げが
二○○○万ドル以下でありながら、一億ドル規模の営業陣を利用する
ことができるようになった。
研究開発のアンバランスもまた機会に転ずることができる。
ある中堅のガラスメーカーが、電子産業用ガラス部品に進出したところ
研究開発費が急増した。あまりの急増ぶりに、企業全体の利益率さえ
脅かすにいたった。しかも電子産業向けの売上げは生産量全体からすれば
わずかにすぎなかった。
当然、このガラスメーカーは電子産業市場からの撤退を検討した。
しかし市場調査によれば、そもそも電子産業が成長産業であるうえに、
電子用ガラス部品は電子産業自体の二倍の速さで成長していくことが
明らかになった。
そこでこのメーカーが、研究開発費の急増の原因を調べたところ、自社の
研究陣が、顧客である電子機器メーカーが行うべき研究開発を引き受けて
しまっていることが明らかになった。
実は、顧客の電子機器メーカーにとっても、本質的に重要な知識は、もはや
電子工学ではなくガラスになっていた。部品の性能はガラスの品質と設計に
かかっていた。
コスト的にはガラスは部品コストのわずかを占めるにすぎなかったが、
技術的にはガラスこそ重大な意味をもっていた。しかし、そのような
貢献に対して、このガラスメーカーはいかなる代価も受け取っていな
かった。
この時のメーカーがとった解決策が、電子産業に「川下統合」(第13章
参照)を図ることだった。すなわち、ガラス部品を組み込んだ電子部品
そのものの生産に進出した。現在、このメーカーの電子産業向けの売上げと
利益は、ガラス部品だけを供給していた頃の数倍になっている。
もちろん、この電子産業への進出に対しては、社内から、得意先と競争
することは許されないというお定まりの反対があった。
しかし実際にはよくあるとおり、昔からの顧客との取引は増大した。
それまで以上の品質の製品とサービスを提供できるようになったからで
ある。
マーケティングや技術だけでなく、あらゆる生産的活動がアンバランスの
原因となりうる。それは放置すれば大きな危険となるが、成長のための
機会へと転ずることもできる。
一つの例が、アメリカのある中小の自動車メーカーが設立したクレジット
会社である。顧客に自動車ローンを提供するには、大都市すべてに支店を
おかなければならない。しかし、中小自動車メーカーとしては、地方支店の
管理費を賄えるほどのローンの仕事はない。
年間売上げ約四億ドルならかなり大きなクレジット会社であるかに見える。
しかし実際には、高度に専門化したクレジット事業の管理なコストを賄う
には規模があまりに小さすぎた。
そこでこのメーカーがとった問題の解決策が、ほかの中小の耐久消費財
メーカーのクレジット業務を引き受けることだった。
すでに自動車ローンによって間接費のほとんどを賄えたために、それら
中小メーカーに対しては、きわめて魅力的な条件を提示することができた。
その結果年間売上げは六億ドルへと増加し、利益をあげられるように
なった。
この続きは、次回に。