P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-58
○ 流通のアンバランス
資源のアンバランスは事業の法的主体の範囲内だけの問題ではない。
生産的活動のアンバランスは、事業の法的、経理的範囲を超えた経済的な
プロセス全体の中にも存在する。
そのようなアンバランスは、流通チャネルにおける専門化した中小の
小売店から全国的な大規模店舗への重心の移行からも発生している。
全国的な大衆消費財メーカーの多くにとって、流通チャネルの四分の三は
中小の小売店である。しかし売上げの四分の三は大規模店舗によっている。
ここから不可避的にアンバランスが生じている。
メーカーは、報われることの小さな限界的な小売店のための流通コストを
負担しながら、市場へ十分アクセスできずにいる。大衆消費財メーカーの
マーケティングは、そのコストと成果との間に大きなアンパランスを
生じている。
一見、誰にもわかる初歩的なことと思われるかもしれない。
しかし流通コストがアンバランスに大きくなっていることは、最終消費者の
負担を中心に捉えたコスト分析によってのみ明らかになる。
経済プロセス全体における出費でなく、法的な単位における出費として
コストを定義するオーソドックスなコスト分析では、流通コストと流通
チャネルの間のアンバランスは見つからない。
もちろん、その種のアンバランスの解決はきわめて容易である。
問題は、なかなか気がつかないことにある。
アメリカでは、この種のアンバランスのために挫折し失望した中小の
消費財メーカーのオーナーが企業を手放し始めている。
彼らにはなぜ利益があがらなくなったのか原因がわからない。
ところが企業を買収した者は、単に流通チャネルを大規模店舗に代える
ことでたちまち利益を回復している。
同じことは、ヨーロッパや日本でも起こっている。消費者が専門化した
回転率の低い小売店から、回転率の高い大規模店舗に乗り換えつつある。
しかし、今日にいたるも、メーカーの多くは昔からの流通チャネルを
維持しようとしている。そして、それらの昔からの流通チャネルが成果を
あげられなくなると、ますますマーケティングと販売の努力を強化し、
その結果ますますアンバランスを大きくしている。
そして結局は、この流通チャネルの変化を理解し、安いコストでより
多くをより効率的に売る機会を見出す者へと事業を売り渡している。
この続きは、次回に。