P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-65
第11章❖未来を今日築く
○ リスクが富を生む
われわれは未来について、二つのことしか知らない。
一つは、未来は知りえない。二つは、未来は、今日存在するものとも
今日存在するものとも今日予測するものとも違う。
これは、新しくもなければ驚くべきことでもない。だが重大な意味をもつ。
第一に、今日の行動の基礎に、予測を据えても無駄である。
望みうることは、既に発生したことの未来における影響を見通すこと
だけである。
第二に、未来は今日とは違うものであって、かつ予測できないもので
あるがゆえに、逆に予測できないことを起こす可能である。
もちろん何かを起こすにはリスクが伴う。
しかしそれは合理的な行動である。何も変わらないという居心地の良い
仮定に安住したり、ほぼ間違いなく起こることについての予測に従ったり
するよりもリスクは小さい。
すでにかなり前から、企業の多くが未来を築くための体系的な仕事の必要を
認めている。リスクと不確実性をなくすことはできない。
人間にはそのようなことはできない。できるのは、適切なリスクを探し、
時にはつくり出し、不確実性を利用するだけである。
したがって未来を築くためにまず初めになすべきことは、明日何をなす
かを決めることではなく、明日をつくるために今日何をなすかを決める
ことである。
未知なる未来のために、現在の資源を使うことが、本来の意味における
企業家に特有の機能である。
一八○○年頃、企業家なる言葉をつくったフランスの偉大な経済学者J・
B・セイは、非生産的な過去のものに固定された資本を使って、今日とは
違う未来をつくるというリスクにかける者を企業家と呼んだ。
これに対し、容易に焦点を合わせたアダム・スミスをはじめとするイギ
リスの経済学者たちは、効率を経済の中心的な機能として。
しかしセイは、リスクの創出と、今日の明日の間の非連続の利用こそ、
富を生む経済活動であると主張した。
今日われわれは、そのような仕事を体系的に行うための方法論を学びつつ
ある。企業家のアプローチとしては、互いに補完関係にある二つの方法が
ある。
第一に、経済や社会の不連続性の発生とそれがもたらす影響との間の
時間的な差を発見し、利用することである。
すなわち、すでに起こった未来を予測することである。
第二に、来るべきものについて形を与えるためのビジョンを実現する
こと、すなわち自ら未来を発生させることである。
この続きは、次回に。