P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-79
○ 経済的な成果をあげられるか
今日欠けているものは、ビジョンの有効性と実用性を測る基準である。
ビジョンが事業の未来を築くには厳密な条件を満たさなければならない。
ビジョンは実用的な有効性をもたなければならない。
「そのビジョンに基づいて行動を起こすことはできるか。
それとも、話ができるか」を考えなければならない。
そして行動しなければならない。
シアーズ・ローバックは、孤立したアメリカの農民に市場を与えるという
ビジョンのもとに動くことによって直ちに成果をあげることができた。
デュポンは、高分子科学の利用というビジョンをもって直ちに研究活動を
組織した。デュポンが行ったことは一人の第一級の研究者の研究活動を
支援するだけのことだった。いずれにせよ、シアーズとデュポンは直ちに
行動をとった。
研究に金を使うだけでは十分では無い。研究は、ビジョンを実現するための
ものでなければならない。デュポンの研究プロジェクトのように、得ようと
する知識は一般的であってよい。しかし成果が実用的な知識であるべき
ことは明らかにしておかなければならない。
ビジョンはまた、経済的にも有効でなければならない。
実行に移したとき、経済的な成果を生まなければならない。
ビジョンを実現するには時間がかかる。永久に実現できないこともある。
しかし実現した暁には、成果としての製品やプロセスやサービスには、
顧客、市場、最終用途が存在しなければならない。
ビジョンそのものが社会的な改革を目的としている場合もある。
しかしその構想の上に事業を築くことができなければ、企業家的なビジョン
ではない。ビジョンの有効性の基準は、選挙での得票数や哲学者からの
喝采ではない。経済的な成果であり、業績である。
たとえその事業の目的が、事業としての成功ではなく社会の改革にあった
としても、ビジョンの有効性の基準としての成果であり、事業としての
繁栄である。
経済的な成果ではなく、社会的な成果をあげるための事業の例は、さほど
多くはない。もちろんロバート・オーエンや若き日のヘンリー・フォードの
ように、社会改革者としてのアプローチによって企業家として成功した
者もいる。しかし、事業を通じて社会的な目的を達成することに成功した
者のすべてが、必ず経済的有効性という評価の基準を容赦なく適用して
いる。
ネーションワイド・インシュアランス社のマリ・リンカーンが行っている
こともそれである。革命担当副大統領を称するマリ・リンカーンは、
その生涯を協同組合運動に捧げた。彼は、営利というものをよくいわない。
しかしその彼も、保険と金融という事業を通じて協同組合運動を推進して
いくうえで、競争相手の本格的な営利企業がそれぞれ自らに課している
業績よりもさらに厳しい業績を自らに課した。
この続きは、次回に。