P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-83
今世紀初頭にセオドア・ヴェイルは、「わが社の事業は公衆へのサービスで
ある」という定義のものにAT&Tを築き上げた。当時そのような構想は異端に
近かった。公衆の利益に留意することは、企業にとって制約と弱みを意味した。
しかしヴェイルは、公共のための規制を受け入れただけでなく、帰省は民有
民営の公益事業にとって必要であると主張した。
「わが社の事業は企業の支援である」が、ペレール兄弟のクレディ・モビリエの
定義だった。
そして、ペレールの追随者たち全ての定義だった。
「わが社の事業は、製品の中に食品店と主婦の労力と技術を組み込むことで
ある」は、ある加工食品業者の定義である。
事業の定義が有効であるためには、成長し変化していけるだけの大きさのもので
なければならない。さもなければ市場や技術が変化したとき簡単に陳腐化する。
「わが社の事業はテレビ受像機である」では小さすぎる。
「わが社の事業は娯楽である」では一般的にすぎる。
事業の定義は、集中を強いるものでなければならない。卓越性を獲得すべき
知識を特定し、リーダーシップを獲得すべき市場を特定しなければならない。
事業の定義が有効であって初めて、企業の中の人間も、「これは関わりが深い
から調べてみなければならない」「これは関わりがないから何もしてはなら
ない」ということがいえる。言い換えるならば事業の定義が事業の方向づけを
行う。
そして事業の定義は実行可能でなければならない。「売れる機器とその機器の
ための消耗品需要をもたらす製品開発が必要である」というように、具体的な
行動に結びつく結論を引き出せなければならない。
あるいは「わが社のマーケティング組織と流通の能力に適合した製品とプロ
セスを開発しなければならない。それらに適合しない製品やプロセスは、他社に
売却するか、ないしは特許を売るところまで開発すれば十分である」といえな
ければならない。
あるいは、もう一つ例を挙げるならば、「わが社は、システム・デザインや
システム・マネジメントの能力が必要とされているかどうかだけに関心がある」と
いうように、具体的な行動に結びつけなければならない。
事業の定義から出てくる最も重要な結論の一つは、事業の規模に関わる意思
決定である。「大規模になろうと努めるべきか。それとも小規模にとどまって
いるほうがよいか」
事業に絶対的な大小はない。事業の規模は市場や競争相手との比較によって
規定される。もちろん成長を目指す事業は、小規模にとどまるほうが優れた
業績をあげられる事業とは異なる方針、異なるマネジメントをもつことを必要と
する。
この続きは、次回に。