P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-85
○ 卓越性の定義
事業の定義と密接に関連するものとして、卓越性の定義がある。
卓越性とは、常に知識に関わる卓越性である。
すなわち、事業のリーダーシップを与える何らかのことを行いうる人間能力の
ことである。事業の卓越性を明らかにするということは、その事業にとって
真に重要な活動が何であり、何でなければならないかを決定することである。
成功している大企業の例に明らかなように、卓越性にはいろいろな定義が
可能である。
GMは、明らかに、事業の発展や事業のマネジメントにおける卓越性を重視して
いる。これに対しGEは昔から、従業員に対し、事業を気にせず科学者や技術者
として卓越するよう奨励してきている。またIBMは、ごく最近まで、売上げと
顧客を生む能力を重視し地域ごとの販売責任者を中心に捉えてきている。
卓越性の定義の適切さを判定できるのは経験だけである。しかし有効でない
定義を知るための判断基準はある。卓越性の定義は、事業に弾力性や成長と
変化の余裕をもたせることができるように、大きく、しかも集中が可能なように
範囲を特定するものでなければならない。
自らの卓越性を狭い専門分野、例えば高分子科学や財務分析というように定義
する企業は、自らを貧血状態に陥れることになる。逆に、職業別電話帳の見出し、
すなわちAのアカウンタント(会計士)からZのジッパーリペア(ファスナー修理)に
いたるあらゆる能力を列挙しているようでは、いかなる領域における凡庸以下の
成果しか上げられない。あらゆる方面に優れるということは、あらゆる方面に
無能だということである。
卓越性の定義が有効であるためには、実行可能であって、直ちに行動できる
ものでなければならない。それは、人事の決定すなわち、「誰を何に昇進させ
るか。どのような人たちを採用するか。どのような人たちをどのような条件に
よって惹きつけるか」の決定の基礎となるものでなければならない。
卓越性の定義を頻繁に変えることはできない。それはすでに、かなりの程度、
従業員とその価値観、行動に体現されているからである。
しかし永久に変わらないという定義はない。
それは定期的に見直し、そのつど新しく考えていかなければならない。
この一五年ほどの間に、GEとIBMは卓越性の定義を拡大した。
GEは、自らの規模の変化そして特に市場の変化に伴い、中心的な卓越性として
マネジメントの能力を加えた。IBMは、コンピュータのために科学や技術の
卓越性を重視するようになった。
事業の定義、構造、市場、知識に変化があれば、必要とする卓越性の定義も
やはり変えなければならない。
この続きは、次回に。