お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-91

カミンズ社は、多角化と集中化のバランスに成功しているよい例である。

しかも同社は、一方のバランスから他方のバランスへと、完全な移行に

成功している。同社は、長年の間、大型トラック用ディーゼルエンジン

という一つの知識領域に専門化して成功していた。そして、顧客や市場に

ついては広範に多角化し、そのディーゼルエンジンを世界中のトラック

メーカーに供給していた。

しかし近年にいたって、それまで主たる顧客だった独立系のトラック

メーカーが激減してきた。そこで同社は、一九六三年の秋、ついにその

伝統的な方針を完全に逆転させ、当時まだ残っていた独立トラックメー

カーの最大手であるホワイトモーター社と合併した。

ホワイトモーターは、大型トラック以外にも、小型と中型のトラック、

ブルドーザーなど、ディーゼルエンジンを使用する機器を手がけていた。

こうしてカミンズ社は、大型トラック用のディーゼルエンジンへの

集中から、ホワイトモーターという元顧客への集中に移行し、広範な

市場や顧客への多角化から、多様な知識と製品の多角化へと移行した。

 

専門化と多角化のバランスは、資源の生産性を大きく規定する。

 

主要な資源の間のアンバランスは、専門化と多角化のバランスの間違いに

由来する(第10章参照)。その場合の解決は、専門化の便益を享受すべく

いっそうの多角化を図るか、専門化の重点を変えることである。

 

例えば、ある小さなメーカーは、高度に訓練された大きな営業部隊を

活用するために、事業そのものを流通業に変えて、専門化の中心を工場と

生産工程からマーケティングと販売に移した。

しかしカミング社の例が示すように、専門化と多角化のバランスさえ

必要に応じて変えていかなければならない。

そのよい例が、古典的な企業家すなわち途上国経済における産業家で

ある。

ブラジルにおいて最も多角化した企業帝国を完成しているマタラッヅ家の

ように、インドそのほかの発展途上国では少数の産業家たちが、砂糖

工場、織物会社、銀行、セメント工場、製鉄工場を創設し、支配し、

マネジメントしている。

彼らは、経済発展の初期の段階では、事業の育成とマネジメントという

希少な知識において専門化している。しかし経済が発展して成熟期に

達すると、そのような知識は希少ではなくなる。

技術やマーケティングに関わる専門知識が決定的に重要となる。

その結果、あらゆる事業に関心をもつ産業家は不要となり、むしろ経済

発展の障害となる。彼ら自身も投資家へと転じていく。

そしてやがて消えていく。

 

この続きは、次回に。

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