P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-90
○ 専門化・多核化・統合
あらゆる企業が中核となるものをもたなければならない。
すなわちリーダー的な地位に立てる領域をもたなければならない。
したがって、あらゆる企業が専門化しなければならない。
あらゆる企業が、その専門化から可能なかぎり多くの成果を得なければ
ならない。そのような意味での多核化をしなければならない。
この専門化と多角化のバランスが、事業の範囲を規定する。
ペアレント・マガジン社は、子供のための本、および子供についての
本の出版社として、三五年の歴史を誇っていた。同社は一九六三年秋、
おもちゃの小売チェーン、F・A・O・シュワーツを買収した。
この買収は、同社の専門性を変えることはなかった。
同社はその専門性を活用できる分野へと多角化したのだった。
ユニリーバも、専門化と多角化のバランスのよい例である。
同社の関連会社は、六○か国以上で五○○社が活躍している。
その構造は、部外者には理解できないほどの複雑である。
同社の事業は、油脂用植物の栽培や漁業から、あらゆる種類の消費財の
販売まできわめて多様である。しかし同社は、鮮魚、加工食品、洗剤、
化粧品など、食品と雑貨のマーケティングに専門化している。
食品雑貨チェーンから漁船団にいたるまで、同社の事業は食品雑貨に
関わる専門的な知識と能力によって統一されている。
専門化と多角化に関連がなければ、生産的とはなりえない。
専門化だけでは、個人営業の自由業に毛が生えただけのことである。
通常、そのような事業は成長できず、一人の人間が死ねば消滅する。
しかし逆に、専門化せず、いかなる卓越性もなく、単に多角化している
だけでは、マネジメントはできなくなり、ついにはまったくマネジ
メントされなくなる。
企業には核が必要である。すなわち、あらゆる活動を一つの知識、
ないしは一つの市場に統合できなければならない。
企業は、意味ある意思決定を行うための核となるべき一つの領域を
もたなければならない。核となるものが存在しなければ、企業の中に
共通語がなくなる。マネジメントが経営の感触を失い、何が適切かも
わからなくなる。適切な意思決定を行えなくなる。
しかも同時に、企業は、急激に変化する市場と技術の世界の中にあって、
必要とされる弾力性を確保するために、成果をもたらす領域を多角化
しておかなければならない。企業は、製品や市場や最終用途において
多角化し、基礎的な知識において高度に集中化しなければならない。
あるいは、知識において多角化し、製品や市場や最終用途において
高度に集中化しなければならない。
この中間では、満足すべき成果はあげられない。
この続きは、次回に。