お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-89

○ 四つのリスク

 

もちろんリスクもまた分類しなければならない。

リスクの大小は、大きさだけで判断すべきではなく、その性格によって

判断すべきである。

基本的にリスクには四つの種類がある。

 

第一に、負うべきリスク。すなわち、事業の本質に付随するリスクである。

第二に、負えるリスク。

第三に、負えないリスク。

第四に、負わないことによるリスクである。

 

・負うべきリスク

 

ほとんどあらゆる産業に負うべきリスクがある。それはほかの産業の

企業にとっては耐えられないリスクである。

 

抗生物質、トランキライザー、ワクチンなど全身作用の新薬の開発には、

治療ではなく殺人のリスクがある。

その一つの例が、奇形児という恐るべきものを残した一九六○年から

六二年にかけてのサリドマイド禍だった。

もう一つの例が一○年前の小児麻痺ワクチンによる死亡事故だった。

いずれの場合も、悲劇を完全に防ぐことはできなかったかもしれない。

われわれは人体の作用についてあまりに知らず、全身作用の薬について

副作用をすべてテストするための方法を知らない。

 

そのような種類の薬を市場に出すことは、医薬品メーカーにとっては

破滅的である。激しい苦しみであるとともに、自信と自尊心を傷つける。

医薬品メーカーとして成功するには、治療を助けるか、あるいは少なく

とも苦痛を軽減するという使命の尊さを信じていなければならない

からである。それでもなお、新薬の開発に伴うリスクは、製薬に携わる

からには負うべきリスクである。だが私の知るかぎり、そのような

リスクを進んで負うなどという企業は、医薬品業のほかにはない。

ほかの三つのリスクは、このリスクに比べれば劇的ではないが、あら

ゆる種類の事業につきもののものである。

 

・負けるリスク

 

機会の追求に失敗して多少の資金と労力を失うというリスクは、負える

リスクである。失敗したならば存続できないほど多額な資金がかかる

のであれば、もともとその機会は追求してはならない機会である。

したがって、あらゆる新しい機会について、「もし完全に失敗したとき、

起こりうる最悪の事態は何か。わが社は破滅するか。

永久にハンディを負うことになるか」「つまりそれは、わが社にとって

負えるリスクか、負えないリスクか」を問わなければならない。

 

・負えないリスク

 

負えないリスクとは、負えるリスクの反対の者である。

ただし、それとは異なる形での負えないリスクというものがある。

その一つとして、成功を利用することができないというリスクがある。

 

新しい事業は、失敗してしまえば最初の資金だけですむ。成功すれば

資金の追加が必要となる。資金が不足するために成功の成果を利用

できないならば、それはもともと負えないリスクがある。

それに劣らず深刻であって、しかもさらによく見られるリスクが、

成功しても知識や市場が欠けているためにその成功を利用することが

できないというリスクである。

したがって、新事業への着手にあたっては、成功を利用できるか、

小さな成功を大事業に発展させるための資金を調達できるか、必要な

技術屋マーケティングの能力はあるか、それとも誰かのために機会を

つくるだけか、を問わなければならない。

 

・負わないことによるリスク

 

負わないことによるリスクの典型は革新的な機会に伴うものである。

 

その古典的な例が、第二次世界大戦後のGEの原子力発電への進出だった。

GEは、原子力を経済的な電力源にできる可能性は低いと見ていた。

しかし発電機メーカーとしは、万一実用化されたとき取り残されると

いうリスクを負うわけにはいかなかった。

こうしてGEは、当時賭けにも等しかった原子力発電に多額の投資を

行い、一級の生産的な人材を投入した。

しかし、負わないことによるリスクは、もしそれを負って成功した

場合には、きわめて大きな利益が得られなければならない。

選択した機会が正しいことを知る方法はない。しかし、正しい機会を

選択するうえでの必要条件はある。それは次のようなものである。

 

① リスクを小さくすることではなく、機会を大きくすることに焦点を

 合わせる。

② 大きな機会は、個別に分離して検討するのではなく、一括して

  体系的にそれぞれの特性を中心に検討する。

③ 事業に合致する機会とリスクを選択する。

④ 目の前にある改善のための易しい機会と、革新のための、事業の

  性格を変えるような長期的で難しい機会とのバランスをとる。

 

この続きは、次回に。

 

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