P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-95
○ 組織構造と戦略
組織構造と、成果をあげ成長する能力との関係について、アルフレッド・
D・チャンドラー教授は「組織は戦略に従う」といい、エディス・T・
ペンローズ女史は「成長にはそのための構造が必要である」と喝破した。
もちろん、正しい組織が成果を約束してくれるわけではない。
しかし、間違った構造は成果を生まず、最高の努力を無駄にする。
組織の構造は、本当に意味のある成果、すなわち事業の定義、卓越性の
定義、優先順位の決定に焦点を合わせたものでなければならない。
企業内の各部門を独立した事業体として位置づける分権化の大きな
利点の一つは、それが事業の成果と業績に焦点を合わせているところに
ある。
しかしそのためには、本社のトップマネジメントのレベルにおいて、
企業全体についての理解とともに、分権化された事業と企業全体の
課題に対する継続的な取り組みがなされなければならない。
独自の市場や製品をもたず、したがって事業ともいえないような活動を
事業部として独立させても意味はない。しかし、独自の市場と製品と
いう二つの要件が満たされるとき、チャンドラーがいうように、分権化は
企業の成果と成長に最も適した構造となる。
しかし組織構造は、いかにそれが今日の事業の要求に応えるものに
なっていたとしても、事業の変化に応じて再検討していかなければ
ならない。
「事業のそれぞれを事業部に独立させたことは、企業全体としての
業績をあげたか。それとも、事業部の業績がよく見えるのは、企業
全体を犠牲にしているからか」
「卓越性を獲得すべき努力は、事業部の責任として位置づけられているか。
それとも事業部は、蔓延する凡庸性の中に没してしまっているか」
これら組織の構造に関わる問いは、常に発していかなければならない。
特にそれらの問いは、一般に中小企業が組織構造に注意を払っていないと
いう理由からだけでも、むしろ中小企業において重要な意味をもつ。
また、組織構造に関わる問題は、急成長を遂げてきた企業に見られる
問題である。組織構造について検討を行うことは、それらの企業が
マネジメントの能力を上回って大きくなり、ついには事業そのものを
売却しなければならなくなることを防ぐうえで不可欠である。
本書において、ここまでずっと述べてきた事業とその成果をもたらす
領域についての分析、および業績をあげるための計画に関わる仕事は、
常に独立した活動として組織する必要のある仕事である。
それらは際立って重要な仕事である。致命的なまでに重要な仕事である。
そして作業を要する仕事である。したがって、それらの仕事は誰かに
担当させ責任をもたなければならない。
ごく小さな企業を除き、それらの仕事はあらゆる企業にとって専任の
人間が行うべき仕事である。
私が本章で述べようとしてきたことは、機会とリスク、事業の範囲、
財務的な戦略、組織構造という四つの重要な領域に関わる問題は、業績を
あげるための計画を策定するにあたってマネジメントが徹底的に検討
しなければならない問題だということである。
なぜならば、これら四つの領域における戦略的な意思決定の如何によって、
事業の歩む道がその目的と大志にふさわしいものとなるか否かが大きく
定まるからである。
● 喝破(かっぱ)
1. 大声でしかりつけること。
「『返事をしないか!』と江間君の―した時」〈独歩・第三者〉
2. 誤った説を排し、真実を説き明かすこと。物事の本質を明言すること。
「思うままに―す可き適当の辞 (ことば) を」〈蘆花・黒潮〉
● 蔓延
つる草がのび広がること。病気や悪習などがいっぱいに広がること。
「ペストが―する」
● 凡庸
平凡でとりえのないこと。また、その人や、そのさま。
「―な(の)人物」
● 致命的
1. 命にかかわるさま。命を失いかねないさま。「―な傷を負う」
2. 損害や失敗などが、取りかえしがつかないほど大きいさま。
「―な痛手を受ける」「―欠陥」
この続きは、次回に。