P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-102
終章❖コミットメント
○ 社会における経済的機能をまっとうする
今日、経済に関わる意思決定は、主として、企業に雇われ、企業で働き、
企業とともに働く経営幹部によって行われているのではない。
もはや、それらの意思決定は、独立して働いている個人、すなわち
企業家だけによって行われているのではない。
現代の経済と社会における企業家的な活動の中心は、組織体としての
企業である。企業が行う経済上の意思決定によって、経済の水準、方向、
道筋が決定されている。
伝統的な企業家は消え去ってはいない。今日発展しつつある産業経済は、
新しい事業を自らのために独立で始める個人に対し大きな活躍の場を
与えている。第二次世界大戦後、アメリカ、西ヨーロッパ、日本、インド、
中南米において、多くの新規参入者が、ほとんど無からスタートして、
独力で新しい事業、新しい産業を興した。
しかし今日では、彼らのうち最も活躍している者でも、すでに確立され
組織された企業と比べるならば、経済全体においては、ごく小さな要素に
すぎない。
しかも、彼ら個人としての企業家も、少しでも成功を収めれば事業を
組織化し、自ら組織の経営幹部とならなければならない。
さもなければ、その企業家的な成功も直ちに無と帰する。
今日の経済においては、中小企業といえども、かつての最も富める
企業家の個人企業よりも、遥かに大きく複雑なものとなっており、
まったく種類の異なる存在となっている。
したがって、今日では、あらゆる企業において、経済的な課題と意思
決定のための体系的な取り組みが日常のものとして求められている。
まさに本書の関心事が、経済的な課題とは何か、いかにそれらを体系化
するかという問題だった。
そして、もし企業が現代経済における企業家活動の中心であるとする
ならば、そこに働く知識労働者は、すべて企業家として行動しなければ
ならない。知識が中心の資源となった今日においては、トップだけで
成功をもたらすことはできない。今後、企業が知識組織となるほど、
企業全体とその成果に対し影響をもたらす意思決定を行う経営幹部の
数が多くなっていく。
といっても、今後、トップマネジメントが重要でなくなり、その仕事が
易しいものになるということではない。逆にいまや、トップマネジ
メントは、知識労働者を成果をあげる経営幹部とすべく、彼らをリード
し方向づけし動機づけしていかなければならない。
この続きは、次回に。