P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-101
経済的な業績への意欲を企業の精神に浸透させるには、最も重要な昇進の
決定において経済的な業績をあげる能力を重視しなければならない。
そのような昇進の方針こそ、優れた業績をあげてきたGMや、デュポンや
シアーズ・ローバックの最大の成功の秘密である。
ここにいう最も重要な昇進とは、本人とその職歴にとってそれがいかに
重要であろうと、本人にとっての最初の昇進ではない。
逆にトップマネジメントの地位への最終的な昇進でもない。
トップマネジメントの地位へは、すでに選ばれた人たちの中から昇進
していく。
最も重要な昇進とは、明日のトップマネジメントが選び出される母集団
への昇進である。それは、組織のピラミッドが急激に狭くなる段階への
昇進である。大組織の場合、その地位へは四○人から五○人のうち一人が
上がる。その地位から上へは、三、四人のうち一人が選ばれる。
その地位までは一つの領域や一人の機能のために働く。
その地位からは、企業全体のために働く。
軍は、これらのことを昔から理解していた。少佐の階級までは、昇進は
主として先任順に行われる。しかし、三○人から四○人の少佐のうち、
大佐になれる者は一人しかいない。大佐になった者だけが将官になる
機会をもつ。将官はこのごく少数の大佐から選ばれる。
したがって軍では、昇進委員会が最も注意深く候補者をふるいにかける
のは、大佐への昇進においてである。
企業では、この大佐的な地位に昇進しても、市場調査部長、研究所長
など、依然として機能的、技術的、あるいは何らかの特定の領域での
職務への昇進にとどまる。しかし、その地位への昇進の決定は、明日の
トップマネジメント候補の決定である。
しかもそれは、組織において最も目立つ意味のある昇進であり、みなが
注目している昇進である。なぜならば、その地位の人間は、組織内の
経営管理者や専門家のほとんどが仕事上の接触をもつ唯一の経営幹部
だからである。
したがって、企業が経済的な成果の達成に焦点を合わせようとするので
あれば、最も重要な地位を補充するにあたっては、企業の目標と成果に
対する貢献の実績、経済的な課題についての証明済みの能力、一つの
技能や技術ではなく企業全体のために働く意欲を重視し報いなければ
ならない。
もちろん経済的な課題についての能力と意欲だけが、経営幹部としての
唯一の要件ではない。経営幹部以外の場合には、例えば団結した効率的な
チームをつくってそれを率いる能力のほうが重要である。
しかし経営幹部については、経済的な成果の重要性への理解と認識が
基本の要件である。
多様な人から成る組織の中に、事業において業績をあげることを浸透
させることは容易ではない。だがそれは欠くべからざることである。
業績をあげるための万能の方策はない。そのような計画を立て、詳細を
定め、具体化を図り、成果をあげるのは、一人ひとりの経営幹部である。
経済的な成果は、景気のよしあしによってもたらされるのではない。
人によって実現されるのである。
● 先任
先にその任務・地位に就いていること。また、その人。前任。
「―の校長」⇔後任 (こうにん) 。
この続きは、次回に。