お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-100

○ 人・職務・組織の精神を中心にすえる

 

つい昨日まで、大企業においてすらマネジメント上の意思決定はトップ

マネジメントのごく数人の人たちによって行われていた。

ほかの人間はそのようにして行われた意思決定の内容を実行するに

すぎなかった。しかし、今日の現実は、世界最大の民営企業である

AT&Tのフレデリック・R・カッペル社長が、国際マネジメント会議で

行ったスピーチで述べたとおりとなっている。

 

「かつてわが社の草創期において、組織の目標を定めたのは、トップ

マネジメントのビジョンだった。しかし今日、事業の目標や未来の

ビジョンはトップマネジメントだけが決めているのではない。

営業部長や研究部長や開発技術部長が決めているのでもない。

意思決定の責任はトップにあるが、意思決定それ自体は大勢の人たちの

判断の結果として行われている」

「知識労働者が貢献できるようにするためには、何が必要で何が可能

かを明らかにし、望ましい結果をもたらすための方法が何であるかを

明らかにし、利用できる手段や発見すべき手段についての判断基準が

何であるかを明らかにすることが必要である」

「企業は、その目標とするものを明確し、それらを明示にし、知識

労働者を鼓舞しなければならない」

今日では、中小企業ですら、技能や体力ではなく知識を仕事に適用する

人たちから成り立つようになっている。そしてあらゆる知識労働者が

意思決定を行なっている。

研究者ならばプロジェクトを続行するか中止するかを決定することに

よって、販売部門の経営管理者ならば最高の営業担当者にどの地域を

担当させるかを決定することによって、企業としての意思決定を行なって

いる。

彼ら知識労働者に正しい意思決定を行わせるには、いかなる成果と

業績が求められているかを知らせなければならない。

カッペルの言葉を借りれば「鼓舞」しなければならない。

知識労働者を監督することはできない。知識労働者は自ら方向づけを

行い、自ら管理し、自らを動機づける。しかし彼らといえども、自らの

知識と仕事がいかにして企業全体に貢献するかを知らなければ、それらの

ことを行うことはできない。

したがって、経営管理者や専門家の職務はすべて、企業全体の経済的な

成果に対する貢献の観点から定義しなければならない。

職務を仕事と技術という観点から定義しても良いのは、誠実な努力に

よってのみ貢献できる人たちだけである。知識と判断力をもち、自らの

方向づけを行い、奮い立つことが動機づけとなる人たちに対しては、

職務の重点を貢献と業績に置かなければならない。

そして、本当に貢献を必要とするのであるならば、それらの貢献を

行なった人たちに報いなければならない。

つまるところ企業の精神は、どのような人たちを高い地位につけるかに

よって決まる。組織において真の力の唯一の管理の手段は、人事の意思

決定、特に昇進の決定である。それは、組織が信じているもの、望んで

いるもの、大事にしているものを明らかにする。

言葉よりも雄弁に語り、数字よりも明確に真意を明らかにする。

 

● 草創期

 

物事の始まりの時期、初期

 

● 鼓舞

 

大いに励まし気持ちを奮いたたせること。勢いづけること。

鼓吹 (こすい) 。「士気を―する」

 

 

この続きは、次回に。

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