『成しとげる力』⑨
○ やる気に火をつける叱り方と受け止め方
人を叱るときに鉄則にしてきたのは、どんなに厳しい叱り方をしても、
「もう辞めてしまえ」という一言だけは絶対にいわないことである。
また「もう辞める」という一言が相手からも出ないような状況、環境を
つくり出してから叱ることも大切である。
そもそも、なぜそこまで真剣に、厳しく叱るかといえば、その人が
かけがえのない大切な人材だからである。
その社員を高く評価しているからこそなのだ。
だからつね日頃から、叱られる者は見込みがあるのだと折にふれて
いっておく必要がある。私はよくこんなふうにいっていた。
「上司から叱られる人はまだ三流以下である。一日に五回叱られるように
なったら、やっと二流。十回叱られるようになってやっと一人前だ」——。
このことが浸透しているから、どんな厳しい叱り方をしても、社員は
辞めることがない。それどころか、より深い信頼で結ばれていくので
ある。
○ チャレンジした人が評価される〝加点主義〟を貫く
私は「減点主義」はとらない。あくまでも「加点主義」である。
スタート時点の評価はゼロだ。そこから、さまざまな課題に意欲的に
挑戦することで、点数がプラスされていく。何もしなかったり、上司
から指示されたことだけをやっていたら、いつまでたっても評価はゼロ
のままだ。
ところが、世の中を見渡せば、これとは逆の「減点主義」を採用して
いる会社のなんと多いことか。つまり、スタート時はある程度の点数が
あるが、何かに挑戦して失敗したら、そこから減点していく方式である。
このシステムだと、積極的に仕事に取り組んで失敗するより、何もしない
ほうが点数が高くなってしまう。必死になって物事にトライするのが、
バカらしくなるのも無理はない。大過なく過ごした者だけが出世すると
いう理不尽な結果に終わってしまう。
当社では、失敗したら加点はないが、減点もない。「ゼロ」からの敗者
復活戦のチャンスが待っているのだ。
あとは、上司から「バカ者!」と叱られるだけだ。
日本では、失敗をしたら責任をとって辞めるというのが一般的である。
それが潔い身の処し方であるという風潮がある。しかし、本当に責任を
取るためには辞めることではなく、その失敗から学び、糧にして次の
成功へとつなげることだ。
失敗することよりも、チャレンジしないことのほうが問題なのだ。
チャレンジする数が多ければ多いほど、失敗の数もおのずと多くなる。
私もこれまでの人生でどれだけの失敗を重ねてきたかしれない。
相撲の星取表にたとえてみるなら、八勝七敗といったところだ。
世間では十三勝二敗ぐらいに思われているのかもしれないが、ぎりぎり
勝ち越すことができたというのが実感なのだ。それだけ多くの黒星も
重ねてきたということだ。
もちろん、負け越してしまっては元も子もないが、黒星が多いという
ことは、それだけチャレンジも多かったことを意味している。
大切なのは、失敗を恐れずにどんどん挑戦することなのだ。
そして失敗から学び、同じ過ちをくり返さなければ負け越すことはない。
本当に強い人間は、強いバネをもっている。失敗しても失敗しても、
何度も起きあがることができるバネである。それは、挫折の数と深さ
から生み出されるものだ。
強い人間になるために、何度もチャレンジして、失敗や挫折をたくさん
経験してほしい。失敗したら、その原因をしっかりと見極めて反省し、
二度と同じ失敗をくり返さなければいい。
成功への道は、そこから開けてくるのだ。
この続きは、次回に。