『成しとげる力』⑫
○ 地位や肩書きでは人は動かせない
訴える力の原点にあるのは、その人がもつ実績だ。いくら、心に響く
ような言葉を並べたところで、いった本人にそれを裏づける実績が
なければ、誰も支持してくれない。また、たんに高い地位や肩書きが
あるだけでも、人は動かないものだ。その人が発する言葉が心に通じ、
腑に落ちたときに初めて、人は「この人についていこう、ともに歩もう」
と決意するのだ。
日本社会はまだまだ人を肩書きで動かそうとする風潮が強いが、海外で
これは通用しない。最初に顔を合わせた瞬間に、このボスはどの程度の
人間かを瞬時に値踏みされるからだ。腕相撲をする前に手を握り合うと、
相手がどのくらい強いかわかるのと同じて、顔を合わせた瞬間にこの
程度のボスの下では働けないと思ったら、さっさと辞めていってしまう。
それが海外の会社である。
日本は肩書きで人を動かそうとするし、また一方で地位の高い人には
従っているふりをしている。ところが心底従っているかといえば、そう
ではない。心のなかではバカにしていることも多いのだ。
○ 失敗談と夢を語る人に人は惹かれる
それでは「訴える力」の源泉となるのは何なのか。人の気持ちを深く
読み取り、どんなに苦しい状況に置かれても明るく、前向きに人々を
引っ張っていくことができる、豊かな感性である。それは先に述べた
EQ値を高めるということだ。
では、どのようにしたら、そうした感性を高めることができるのか。
もちろん、一朝一夕には身につかない。必要なのは失敗や挫折などの
経験だ。それらの経験を通じて、人のつらさや痛みが自分のものとして
染み込んで初めて、EQ値が高まっていく。
日本経済新聞の「私の履歴書」は、各界の著名人が自らの半生を語る
名物コラムだが、成功の自慢話より失敗談のほうが人気がある。
「華々しく成功した人でも、その過程ではこれだけの失敗をして苦しん
だのか」と心に響くものがあるのだ。
私自身、学んだことのほとんどは失敗からだ。挫折の苦しみを体験した
者が発する言葉には訴える力がある。聞く者の心をつかみ、腑に落ち
るものがあるのだ。
注意しなければならないのは、ここで取り上げている失敗とは、一生
懸命がんばったうえでの失敗を指していることだ。漫然と手を抜いて
失敗したところで、得るものは何もない。人は平らな道でもつまずく
ことがある。そのような失敗は論外だ。
若い人には夢を語るのが効果的だ。我々がこれから進む先には、こん
なに素晴らしい世界が開かれている、あるいは、自分たちの仕事はこれ
だけ社会に貢献している、と大いに夢を語って、実現していく。
そこに、若者はついてくるのだ。
この続きは、次回に。