『成しとげる力』㉕
○ まず学生たちに気概と自信を取り戻すこと
新しい大学がめざしているものとは何か。それは、専門性と実践的な
英語力に加えて、「グローバル社会人基礎能力」、すなわちコミュニ
ケーション能力、チームワーク、リーダーシップなど多様な社会を
たくましく生き抜くためのスキルを身につけた人材の育成である。
大学改革の先駆者として、そのような有為な人材を世に送り出し、世界に
通用する一流大学をめざすのである。
大学の〝主役〟はあくまでも学生である。学生自身の意識が変わらな
ければ、めざす大学改革は達成できない。よい教育を行うためのカリ
キュラムや施設を整備することも大切だが、何よりも学生たち自身が
気概とやる気をもたなければならない。
—-君たちは実にいい時代に生まれてきた。これまでの日本社会は、
二十年努めないと課長に昇進できないといった「年功序列」の大きな
壁があった。一方、一流の大学を出て有名企業に入れば、それなりに
安泰な人生を送ることができたわけだ。しかし、それは昔の話だ。
いまや、実力がものをいう時代が到来したのだ。まさにチャンスだ。
そこで求められるのが「3P」だ。指示待ちではなく、自ら考えて行動
すること(Proactive)。そのためには、自分の専門能力を向上させ
(Professional)、生産性を上げる(Productive)ことが重要になってくる。
この大学でぜひこの3Pを身につけようではないか—–。
残念なことに、日本人はこの3Pが実に弱い。子どもの頃から親や先生の
いうことを素直に聞き、会社に入れば上司の指示に従う。
職場もさまざまな部署をぐるぐる異動し、なんでも広く浅くこなす人間を
育ててきた。専門性が磨かれてこなかった。
生産性をみても、ドイツに比べて二分の一程度しかない。
いまだに「紙とえんぴつ」の世界に生きている。これからの社会は、
単純作業はAIやロボットが請け負うので、指示待ち族の月給はせいぜい
十万円だという声もあるぐらいだ。
3Pのうち、もっとも大切なことは、最初の「自ら考えて行動すること」
である。これからの乱世は、他人や世間に追随していたら生きていけ
ない。型にはまらない「とんがり人材」が求められているのだ。
私が尊敬する経営者であるオムロンの立石一真さんや京セラの稲盛和夫
さんのような創業者は「とんがり人材」の典型だろう。
私もその一人だと思っている。そういった可能性を秘めた人材を世界に
通用する即戦力にするべく鍛え、育てていくのが、これからの私の使命
だと思っている。
これからは〝VUCA〟の時代だといわれている。
VUCAとは、「Volatility=変動性」「Uncertainty=不確実性」
「complexity=複雑性」「Ambiguity=曖昧性」の略である。
すなわち目まぐるしく環境が変化し、将来の予測が困難になる時代が
到来するのである。
そうしたなかで、世界の状況変化を読み解きながら柔軟に対応できる
「自立的な経営力」をもつ学生を育てるために、経営の現場で使える
知識や知恵、思考法などを身につけてもらう〝実践知の道場〟にしたい。
理事長である私自身ももちろん、教壇に立つつもりである。
● 気概
困難にくじけない強い意志・気性。「先駆者の―を示す」「―のある人」
● 安泰
無事でやすらかなこと。また、そのさま。安穏 (あんのん) 。平穏。
「国家の―を願う」
この続きは、次回に。