『成しとげる力』㉔
○ 食事をしながらの懇談会が効果的な理由
そして私が行ったのは、食事をしながらの懇談会である。
十五人から二十人の少人数ごとにメンバーを集め、ポケットマネーで
昼食懇談会を何度も開いたのだ。対象は教員、幹部はもとより、一般
職員までの全教職員に及んだ。月に一回以上は大学で懇談会を開き、
教職員と直に顔を合わせる機会をつくった。
ちなみに、食事をしながら意見を吸い上げ、またこちらの仕事に対する
信念や理念を伝えるというこの方法は、M&Aで傘下に収めた企業の
意識改革のために行ってきたことでもある。これが、絶大な威力を発揮
したのだ。以前に資本提携した会社の社員とは毎回二十人程度が参加
する昼食会を、課長職以上の管理職とは夕食会を、それぞれ開いた。
食事を一緒にしたり一杯飲んで話をしたりすると、本音がどんどん出て
くるものだ。どんな質問でも受け、問題があれば、すべて解決した。
こうして社員の考え方のベクトルを、一つの方向にまとめていったのだ。
一年間で開いた昼食会は五十回を超え、参加社員は千人以上にのぼった。
管理職との夕食会も二十回以上を数え、三百人以上の幹部が参加した。
その結果、わずか1年で二百億円も収益が改善され、黒字転換を達成
したのだ。
○ コイの群れに放たれる〝ナマズ〟になれるか
コイの群れにナマズを入れるという逸話がある。
フランスのベルサイユ宮殿の庭には大きな池があり、美しいコイが優雅に
泳いでいたが、ある日、鳥に食べられてしまった。
そこで、コイを守るために網を設置したところ、安心したコイは泳が
なくなり、岩陰にじっとして、ただ餌を待つだけになってしまった。
すると、みるみるうちに醜く太ってしまったのだ。
以前のように美しい姿のコイにしようと試行錯誤した結果、ある方法が
もっとも効果をあげたという。それこそが、コイの天敵であるナマズを
一匹、池に放つことだった。すると、コイはいつ襲って来るかわから
ないナマズを警戒し、必死に泳ぐようになり、かつての優雅な姿を取り
戻したという話だ。
これは、人間の組織にもそのままあてはまる。組織の活性化を維持する
ためには、つねに緊張感が必要なのだ。ぬるま湯に浸かっていると、
危機が訪れたときには手遅れになってしまう。
要するに、私自身が、コイの群れに放たれたナマズの役目を演じている
わけである。
○ 試行錯誤
新しい物事をするとき、試みと失敗を繰り返しながら次第に見通しを
立てて、解決策や適切な方法を見いだしていくこと。
▽「試行」は試しに行うこと。「錯誤」は誤り・間違い。
この続きは、次回に。