『成しとげる力』㉓
○ グローバル社会で活躍できる人材を育てるために
つねづね、人間には三つのタイプがあると考えている。
自分で燃える人(自然型)と他人の火をもらって燃える人(他燃型)、
そして、まったく燃えない人(不燃型)の三つだ。
自らに目標を課し、それに向けてひたすら前進できる人が自然型。
いわば、自分でマッチをすって、燃え上がることができる貴重なタイプだ。
世の中には百人に三人ほどしかいないだろう。ほとんどの人は他然型だ。
自分ではマッチを持っていない。まわりの人の火をもらって燃えるのだ。
八十パーセントがこの他然型に属する。
そして、残りの十七パーセントが不燃型人間だ。まわりが燃え盛っても、
少し温度が上がる程度で、火は燃え移らない。これが始末に悪い。
このタイプが二十パーセント
○ すぐに踏み出した教育改革への第一歩
自らの手で世界に通用する理想の大学を創ろう——-熱い思いの火が
灯ると、すぐに私は動き出した。
ところが、準備を進めていくうちに、壁にぶち当たった。
大学設立の手続きは煩雑で、想像以上に時間がかかることがわかった
のだ。中国をはじめ、アジア諸国・地域の躍進を考えると、悠長に構え
てはいられない。そのようなときに、旧知の間柄である京都学園大学の
理事長から一つの提案があった。二○一六年十二月のことである。
「理想の大学づくりをめざしているなら、わが大学を使ってもらえ
ないか」と。
当時の京都学園大学はけっして経営が行き詰まっていたわけではない
のだが、これから急速に少子化のなかで、将来の大学を取り巻く環境と
今後の大学運営に強い懸念を抱いていたのだ。
私はこの提案を即座に受諾した。なるほど、大学を一からつくって
いたら、時間もコストもかかる。もともとある大学を改革するほうが、
はるかに効率よく理想の大学を実現できるだろう。
日本電産がお家芸とするM&Aの経営手法を、大学改革でも活用しよう
と考えたわけだ。
それから一カ月後、私は初めて京都学園大学のキャンパスを訪れた。
そして、衝撃を受けたのだ。
講義中にもかかわらず、寝ている学生もいれば、後ろの席では学生同士が
私語を交わしたり、スマートフォンをいじったりしている。
身を入れて講義を聴いている者は、ごくわずかだ。教壇に立つ先生は、
そんなことにはおかまいなく、板書をしながら淡々と講義ノートを
読んでいる。
これで大学の講義といえるのか。あとで先生に問いただすと、「学生の
レベルが低いからです」とあきらめ顔だ。それに対して、私はこういった。
「それは間違っている。先生の教え方が悪いからだ。古い講義ノートを
使って、ただ板書して教えるだけ。講義がつまらないからだ」と。
目下の急務は教職員の意識改革にあることを、そのとき痛感した。
それは、多くのM&Aを手がけ、経営危機に陥った企業を再生してきた
経営者としての直感だった。
日本電産が手がけたM&Aの特徴は、経営陣の入れ替えや人員整理には、
絶対に手を出さないことにある。なぜならば、意識改革さえできれば、
敗者が勝者としてよみがえることを確信しているからだ。
大学にも同じことが必要だと痛感したのである。
この続きは、次回に。