「道をひらく」松下幸之助 ③
・素直に生きる
逆境—–それはその人に与えられた尊い試練であり、この境涯にきた
えられてきた人はまことに強靭である。古来、偉大なる人は、逆境に
もまれながらも、不屈の精神で生き抜いた経験を数多く持っている。
まことに逆境は尊い。だが、これを尊ぶあまりに、これにとらわれ、
逆境でなければ人間が完成しないと思いこむことは、一種の偏見では
なかろうか。
逆境は尊い。しかしまた順境も尊い。要は逆境であれ、順境であれ、
その与えられた境涯に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬ
ことである。
素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚(うぬぼれ)を生む。
逆境そのいずれをも問わぬ。それはそのときのその人に与えられた一つの
運命である。ただその境涯に素直に生きるがよい。
素直さは人を強く正しく聡明にする。逆境に素直に生き抜いてきた人、
順境に素直に伸びてきた人、その道程は異なっても、同じ強さと正しさと
聡明さを持つ。
おたがいに、とらわれることなく、甘えることなく、素直にその境涯に
生きてゆきたいものである。
● 境涯
この世に生きていく上でおかれている立場。身の上。境遇。「不幸な―」
● 強靭
しなやかで強いこと。柔軟でねばり強いこと。また、そのさま。
「―な肉体」「―な意志」
● 逆境
苦労の多い境遇。不運な境遇。「―にめげない」⇔順境
● 順境
物事が都合よく運んでいる境遇。「―のうちに育つ」⇔逆境。
● 聡明
《「聡」は耳がよく聞こえること、「明」は目がよく見えること》
物事の理解が早く賢いこと。また、そのさま。「―な少年」
この続きは、次回に。