「道をひらく」松下幸之助 ⑨
・病を味わう
病気になってそれがなおって、なおって息災を喜ぶうちにまた病気に
なって、ともかくも一切病気なしの人生というものは、なかなか望み
えない。軽重のちがいはあれ、人はその一生に何回か病の床に臥すの
である。
五回の人もあろう。十回の人もあろう。あるいは二十回、三十回の人も
あるかもしれない。親の心配に包まれた幼い時の病から、不安と焦燥に
悶々とする明け暮れに至るまで、人はいくたびか病の峠を越えてゆく。
だがしかし、人間にとって所詮死は一回。あとにも先にも一回きり。
あとの何回かは、これもまた人生の一つの試練と感じられようか。
いつの時の病が死につながるのか、それは寿命にまかすとして、こん
どの病もまた人生の一つの試練なりと観ずれば、そこにまたおのずから
心もひらけ、医薬の効果も、さらにこれが生かされて、回復への道も
早まるであろう。
病を味わう心を養いたいのである。そして病を大事に大切に養いたい
のである。
● 息災
1. 病気をしないで、元気なこと。また、そのさま。
「―に暮らす」「無病―」
2. 仏の力で災難を防ぎ止めること。
● 焦燥
いらいらすること。あせること。「事業の失敗に―する」「―感」
この続きは、次回に。