「道をひらく」松下幸之助 ㉗
○ みずから決断をくだすときに
・断を下す
ひとすじの道をひとすじに、ひたすら歩むということは、これもまた
なかなか容易ではないけれど、東と西に道がわかれて、それがまた北と
南にわかれて、わかれにわかれた道をさぐりさぐり歩むということは、
これも全く容易ではない。
どうしようか、どちらに進もうか、あれこれととまどい、思い悩んでも、
とまどい悩むだけではただ立ちすくむだけ。
自分ひとりなら、長い道程、時に立ちすくむこともよかろうが、たく
さんの人があとにつづいて、たくさんの人がその道に行き悩んでいる
としたら、わかれた道を前にして、容易でないとグチばかりこぼしても
いられない。
進むもよし、とどまるもよし。要はまず断を下すことである。
みずから断を下すことである。それが最善の道であるかどうかは、神
ならぬ身、はかり知れないものがあるにしても、断を下さないことが、
自他共に好ましくないことだけは明らかである。
人生を歩む上において、企業の経営の上において、そしてまた大きく
国家運営の上において、それぞれに今一度、断を下すことの尊さを
省みてみたい。
● 道程
1. ある地点に着くまでの距離。みちのり。行程。「一日の―」
2. ある境地・状態になるまでの時間。過程。「完成までの―」
・命を下す
自分がこうしたいと思うことを人に命じて、その命のままに自在に人が
動くということは、事を運ぶうえにおいて、きわめて大事なことでは
あるけれど、命になれて、いつのまにか命がなければ人が動かないと
いうことになっては、これはたいへん。こんな硬直した姿では、進歩も
発展も生まれないであろう。
たとえ命令がなくとも、以心伝心、命ずる人の意を汲んで、それぞれの
人が適時適格にすすんで事を運んでゆく—–こういう柔軟な姿のなかに
こそ、かぎりない発展性が生まれてくる。
そのためには、命を下す前に、まず人のいうことに耳をかたむける
ことである。まず聞くことである。聞いた上で問うことである。
そして、そこにわが思いと異なるところがあれば、その気づかざる点を
気づかしめ、思い至らざる点の理非を説く。そうした納得のうえに
立って、断固、命を下さねばならない。命を受ける人に納得があると
いうことは、その人の知恵がされだけ高まったということである。
わけのわからぬままに命に従わせていたのでは硬直する。
命を下すということは、ほんとうはそんな容易なことではないので
ある。
● 以心伝心
無言のうちに心が通じ合うこと。「―の間柄」
● 適時適格
情報の開示や表明などについて、開示する時期やタイミングが適切で
適時適切の概念は、特に企業におけるCSR(企業の社会的責)の文脈で
言及されることが多い。経営見通しに下方修正が必要な場合になどに、
投資家へ迅速に、かつ十分な情報を開示するように、といった意味合い
で用いられる。
● 理非
道理にかなっていることと外れていること。是非。「―を弁じる」
この続きは、次回に。