「道をひらく」松下幸之助 ㉘
・風が吹けば
風が吹けば波が立つ。波が立てば船も揺れる。揺れるよりも揺れない
ほうがよいけれど、風が強く波が大きければ、何万トンの船でも、
ちょっと揺れないわけにはゆくまい。これを強いて止めようとすれば、
かえってムリを生じる。ムリを通せば船がこわれる。揺れねばならぬ
ときには揺れてもよかろう。これも一つの考え方。
大切なことは、うろたえないことである。あわてないことである。
うろたえては、かえって針路を誤る。そして、沈めなくてよい船でも、
沈めてしまう結果になりかねない。すべての人が冷静に、そして忠実に
それぞれの職務を果たせばよい。ここに全員の力強い協力が生まれて
くるのである。
嵐のときほど、協力が尊ばれるときはない。うろたえては、この協力が
こわされる。だから、揺れることを恐れるよりも、協力が壊される
ことを恐れたほうがいい。
人生は運不運の背中合わせといえる。いつ突如として嵐がおとずれるか、
だれしも予期することはできない。
つねに自分のまわりを冷静にながめ、それぞれの心がまえを、しっかりと
確かめておきたいものである。
・判断と実行と
どんな仕事でも、仕事をやるからには判断が先立つ。判断を誤れば、
せっかくの労も実を結ばないことになろう。
しかし、おたがいに神さまではないのだから、先の先まで見通して、
すみからすみまで見きわめて、万が一にも誤りのない一○○パーセント
正しい判断なんてまずできるものではない。できればそれに越した
ことはないけれど、一○○パーセントはのぞめない。
それは神さまだけがなし得ること。おたがい人間としては、せいぜいが
六○パーセントというところ。六○パーセントの見通しと確信ができた
ならば、その判断はおおむね妥当とみるべきであろう。
そのあとは、勇気である。実行力である。
いかに適格な判断をしても、それをなしとげる勇気と実行力とがなか
ったなら、その判断は何の意味も持たない。勇気と実行力とが、六○
パーセントの判断で、一○○パーセントの確実な成果を生み出してゆく
ことである。
六○パーセントでもよいから、おたがいに、謙虚に真剣に判断し、
それを一○○パーセントにする果断な勇気と実行力とを持ちつづけて
ゆきたいものである。
この続きは、次回に。