「道をひらく」松下幸之助 ㉝
○ 困難にぶつかったときに
・心配またよし
何の心配もなく、何の憂いもなく、何の恐れもないということになれば、
この世の中はまことに安泰、きわめて結構なことであるが、実際はそうは
問屋が卸さない。人生つねに何かの心配があり、憂いがあり、恐れが
ある。
しかし本当は、それらのいわば人生の脅威ともいうべきものを懸命に
そしてひたすらに乗り切って、刻々と事なきを得てゆくというところに、
人間としての大きな生きがいをおぼえ、人生の深い味わいを感じると
いうことを大事なのである。この心がけがなければ、この世の中はまことに
呪わしく、人生はただいたずらに暗黒ということになってしまう。
憂事に直面しても、これを恐れてはならない。しりごみしてはならない。
“心配またよし”である。心配や憂いは新しくものを考え出す一つの転機
ではないか、そう思い直して、正々堂々とこれと取り組む。
力をしぼる。知恵をしぼる。するとそこから必ず、思いもかけぬ新しい
ものが生み出されてくるのである。新しい道がひらけてくるのである。
まことに不思議なことだが、この不思議さがあればこそ、人の世の
味わいは限りなく深いといえよう。
● 憂い
1. 予測される悪い事態に対する心配・気づかい。うれえ。「後顧の―」
2. 嘆き悲しむこと。憂鬱 (ゆううつ) で心が晴れないこと。うれえ。
「―に沈んだ顔」
● 安泰
無事でやすらかなこと。また、そのさま。安穏 (あんのん) 。平穏。
● 問屋が卸さない
そんな値段では、問屋が品物を卸してはくれないと言うことから、
簡単には相手の思い通りには応じられなかったり、そんなに簡単に
できるものではないと言うことの例え。
● 刻々と
次第に、その時その時、という意味の語。
「時間が刻々と過ぎていく」などのように用いる。
● 憂事(ゆうじ)
うれい‐ごと〔うれひ‐〕【憂い事/愁い事】
1. 心配事。 悲しいこと。
2. 歌舞伎などで、登場人物が悲しみや嘆きを表す演技。
この続きは、次回に。