「道をひらく」松下幸之助 ㊸
・一陽来復
ひろい世の中、長い人生、いつも心楽しいことばかりではない。
何の苦労もなく何の心配もなく、ただ凡々と泰平を楽しめれば、これは
これでまことに結構なことであるけれど、なかなかそうは事が運ばない。
ときには悲嘆にくれ、絶体絶命、思案にあまる窮境に立つこともしば
しばあるであろう。
しかし、それもまたよし。悲嘆のなかから、人ははじめて人生の深さを
知り、窮境に立って、はじめて世間の味わいを学びとることができる
のである。
頭で知ることも大事だが、身をもって知るということが何よりも大事。
塩の辛さはなめてみてはじめてわかる。知るということにも、いろいろ
あるのである。
窮境に立つということは、身をもって知る尊いチャンスではあるまいか。
得難い体得の機会ではあるまいか。そう考えれば、苦しいなかにも勇気が
出る。元気が出る。思い直した心のなかに新しい知恵がわいて出る。
そして、禍いを転じて福となす、つまり一陽来復、暗雲に一すじの陽が
さしこんで、再び春を迎える力強い再出発への道がひらけてくると思う
のである。
● 一陽来復
冬が終わり春が来ること。新年が来ること。また、悪いことが続いた
後で幸運に向かうこと。陰の気がきわまって陽の気にかえる意から。
▽もと易(えき)の語。陰暦十月は坤(こん)の卦かにあたり、十一月は
復の卦にあたり、陰ばかりの中に陽が戻って来たことになる。「復」は
陰暦十一月、また、冬至のこと。
● 窮境
● 禍(わざわい)を転(てん)じて福(ふく)と為(な)す
《「戦国策」燕策から》わざわいに襲われても、それを逆用して幸せに
なるように取り計らう。
おたがい 自分ただ一人の立場にこだわることなく
二十年後 三十年後の日本に大きく目をひらこう
人と人 団体と団体が ともにその独自性を生かしつつ
のびのびと活動できる秩序正しい自由の中にこそ
人間と社会の かぎりない生成発展が約束されるのだ
補うべきは補い 助けるべきは助け合って
日本と世界を思う高い立場で 自由闊達の道を歩もう
● 自由闊達
心が広くのびのびとして物事にこだわらないさま。
▽「闊達」は度量が大きく、小事にこだわらないさま。
「闊」は「豁」とも書く。 「闊達自由かったつじゆう」ともいう。
この続きは、次回に。