お問い合せ

「道をひらく」松下幸之助 ㊹

○ 仕事をより向上させるために

 

・自分の仕事

 

どんな仕事でも、それが世の中に必要なればこそ成り立つので、世の

中の人びとが求めているのでなければ、その仕事は成り立つものでは

ない。人びとが街で手軽に靴を磨きたいと思えばこそ、靴磨きの商売も

成り立つので、さもなければ靴磨きの仕事は生まれもしないであろう。

だから、自分の仕事は、自分がやっている自分の仕事だと思うのは

とんでもないことで、ほんとうは世の中にやらせてもらっている世の

中の仕事なのである。ここに仕事の意義がある。

自分の仕事をああもしたい、こうもしたいと思うのは、その人に熱意が

あればこそで、まことに結構なことだが、自分の仕事は世の中の仕事で

あるということを忘れたら、それはとらわれた野心となり小さな自己

満足となる。

仕事が伸びるか伸びないかは、世の中がきわめてくれる。世の中の

求めのままに、自然に自分の仕事を伸ばしてゆけばよい。

大切なことは、世の中にやらせてもらっているこの仕事を、誠実に謙虚に、

そして熱心にやることである。世の中の求めに、精いっぱいこたえる

ことである。おたがいに、自分の仕事の意義を忘れたくないものである。

 

・働き方のくふう

 

額に汗して働く姿は尊い。だがいつまでも額に汗して働くのは知恵の

ない話である。それは東海道を、汽車にも乗らず、やはり昔と同じように

テクテク歩いている姿に等しい。東海道五十三次も徒歩から駕籠へ、

駕籠から汽車へ、そして汽車から飛行機へと、日を追って進みつつある。

それは、日とともに、人の額の汗が少なくなる姿である。そしてそこに、

人間生活の進歩の跡が見られるのであるまいか。

人より一時間、よけいに働くことは尊い。努力である。勤勉である。

だが今までよりも一時間少なく働いて、今まで以上の成果をあげる

ことも、また尊い。そこに人間の働き方の進歩があるのではなかろうか。

それは創意がなくてはできない。くふうがなくてはできない。

働くことは尊いが、その働きにくふうがほしいのである。

創意がほしいのである。額に汗することを称えるのもいいが、額に汗の

ない涼しい姿も称えるべきであろう。怠けろというのではない。

楽をするくふうをしろというのである。楽々と働いて、なおすばらしい

成果があげられる働き方を、おたがいにもっとくふうしたいというので

ある。そこから社会の繁栄も生まれてくるであろう。

 

 

この続きは、次回に。

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