「道をひらく」松下幸之助 ㊼
・引きつける
磁石は鉄を引きつける。何にも目には見えないけれども、見えない力が
引きつける。しぜんに鉄を引き寄せる。
人が仕事をする。その仕事をする心がけとして、大事なことはいろいろ
あろうけれども、やっぱりいちばん大事なことは、誠実あふれる熱意
ではあるまいか。
知識も大事、才能も大事。しかし、それがなければ、ほんとうに仕事が
できないというものでもない。たとえ知識乏しく、才能が劣っていても、
なんとかしてこの仕事をやりとげよう、なんとしてでもこの仕事をやり
とげたい、そういう誠実な熱意にあふれていたならば、そこから必ず
よい仕事が生まれてくる。
その人の手によって直接にできなくとも、その人の誠実な熱意が目に
見えない力となって、自然に周囲の人を引きつける。磁石が鉄を引き
つけるように、思わぬ加勢を引き寄せる。そこから仕事ができてくる。
人の助けで、できてくる。
熱意なき人は描ける餅の如し。知識も才能も、熱意がなければ無に
等しいのである。おたがいに一生懸命、精魂こめて毎日の仕事に打ち
込みたい。
● 精魂
たましい。精神。「―込めて作り上げる」
・力をつくして
どんな仕事でも、一生懸命、根かぎりに努力したときには、何となく
自分で自分をいたわりたいような気持ちが起こってくる。自分で自分の
頭をなでたいような気持ちになる。
きょう一日、本当によく働いた、よくつとめた、そう思うときには、
疲れていながらも食事もおいしくいただけるし、気分もやわらぐ。
ホッとしたような、思いかえしても何となく満足したような、そして
最後には「人事をつくして天命を待つ」というような、心のやすらぎ
すらおぼえるものである。
力及ばずという面は多々あるにしても、及ばずながらも力をつくした
ということは、おたがいにやはり慰めであり喜びであり、そしていた
わりでもあろう。
この気持ちは何ものにもかえられない。金銭にもかえられない。
金銭にかえられると思う人は、ほんとうの仕事の喜びというものが
わからない人である。仕事の喜びを味わえない人である。
喜びを味わえない人は不幸と言えよう。
事の成否も大事だけれど、その成否を越えてなお大事なことは、力を
つくすというみずからの心のうちにあるのである。
● 根かぎり
「―説得する」
この続きは、次回に。