「道をひらく」松下幸之助 ㊿+18
・乱を忘れず
景気がよくて、生活も豊かで、こんな姿がいつまでもつづけば、まこと
に結構である。しかし、おたがい人生には、雨の日もあれば、風の日も
ある。
景気にしても好況のときもあれば、不況のときもある。いつも平和な、
いつも豊かなときばかりとは限らない。それが人生である。世の中である。
ところが、世の中が落ちついて、ある程度景気もよくなり、生活も向上
して、いわゆる安穏な生活がつづくようになると、いつしか、この世の中
実体を忘れ、人生のあり方を忘れて、日を送る。
それですむなら、それでもよかろう。しかしいつかは台風が来、ある
いは不景気の波が立つ。そのときになっても、はたしてきのうに変わら
ぬ泰然の心境でいられるか、どうか。
いついかなる変事にあおうとも、つねにそれに対処してゆけるように、
かねて平時から備えておく心がまえがほしいもの。
「治にいて乱を忘れず」である。
それがわかっていながら、しかもおたがいに今ひとつ充分でないのも、
これも人間の一つの弱点であろうか。
● 安穏
● 泰然
落ち着いていて物事に驚かないさま。「―として構える」「―たる態度
● 変事
● 平時
● 治にいて乱を忘れず
平穏無事の世の中にいても、つねに乱世のことを考えて、準備をして
おかなければならぬという教訓。
この続きは、次回に。