「道をひらく」松下幸之助 ㊿+35
・わが事の思いで
ひとくちに漫才、落語といっても、上手下手さまざまである。
同じネタでも名人上手がやれば、抱腹絶倒つきないおもしろみがある
けれども、下手な人がやればおもしろくもなければおかしくもなし。
ましてや素人がやれば、あくびを殺しながらの時間の浪費。
材料が同じなのに、どうしてこんなにちがうのか。
持ち味もあろう。適性もあろう。修練のあろうし、くふうもあろう。
熱意のちがい、真剣さのちがい、研究心のちがい、こうしたものが
総合されて、天地の差を生み出しているのかもしれない。
漫才ならば、下手でもせいぜいが時間の浪費で終わるけれども、これが
一国の政治ともなるとそう簡単に事はすまない。同じ国土、同じ国民、
同じ国富、つまり材料は同じでも、政治のやり方一つ、政治家の心がけ
一つで、国家の盛衰、国民の幸不幸が根本的に左右されてくるのである。
国家の運営も会社の経営も、また商店の経営も団体の運営も、すべて
みな同じことが言えるのであろう。
他人事ではない。わが事である。わが事の思いで、今一度、政治を吟味
したい。経営を吟味したい。そして個人として、また国民としてのわが
身のあり方を静かにふりかえってみたい。
● 抱腹絶倒
腹を抱えて大笑いすること。 「抱腹」は、腹を抱えること。
「絶倒」は、感情が激しくなって平静でいられないこと。
また、笑い転げること。
● 盛衰
物事が盛んになることと衰えること。物事が盛んであることと衰えて
いること。隆替。じょうすい。
・平和と闘争
平和と闘争とは本来相容れないものである。ことばのうえでも事実の
うえでも、全く正反対のものである。平和はあくまで平和であり、闘争
はあくまで闘争である。
ところが近ごろは、平和のための闘争などという奇妙なことばが口に
され、口にされるばかりでなく、このことばに基づいて、何かとハデな
闘いが展開される傾向が強い。これはこれなりに、あるいは理屈のある
ことかもしれないが、いかに理屈を通しても、相容れないものは所詮
相容れない。
戦争の悲惨さは、もう今日世界じゅうのだれもが身にしみて体得して
いるところで、だから世界の人びとは、平和を得るために戦争を起こす
などという愚かな考えは、できるだけこれを避け、平和のうちに平和が
得られるよう、真剣な努力を重ねているのである。
われわれも、もうそろそろ大人になっていいころである。仲よくする
ためになぐり合いをするなどという稚気に類した振舞はもうやめて、
平和な話し合いのうちに、平和な繁栄の生活が得られるようおたがいに
最善の考慮をはらいたい。
われわれの周囲には、日常こんな問題がたくさんあるのである。
● 相容れない
● 稚気
子供のような気分。子供っぽいようす。「―に富む」「―愛すべし」
この続きは、次回に。