「道をひらく」松下幸之助 ㊿+36
・談笑のうちに
わが国も、戦後は言論の自由がゆるされて、そのために世の中がずい
ぶんと明るくなったが、その反面にカンカンガクガクの徒がやたらに
ふえて、黙々と働くという気風がいささか薄れたようにも思われる。
論多くして国栄えず、とまでは言わないが、この点おたがいに静かに
反省してみてはどうだろう。
よい自動車は、その性能が良ければ良いほど、余計な音を発しない。
小さい音で、しかもすばらしいスピードで走るのである。ところが悪い
自動車は、ブウブウガタガタ大きな音をたて、そのくせなかなか速度が
出ずに、すぐにエンコしてしまう。
口角アワをとばし、腕をまくらんばかりの大議論をしながら、一向に
ものごとが進まないのは、この悪い自動車のように、どうもあまり感心
した姿ではない。やっぱりよい自動車のように、最小限必要の議論に
止め、それも談笑のうちにスムーズに運んでゆきたいものである。
それでこそ議論がほんとうの世の中の繁栄に役立つことになるであろう。
朗らかに語り合い、黙々として働く—-おたがいにエンコしないうちに、
国家として、また国民としてこんなことを心がけてみたい。
● 口角アワをとばし
興奮して激しく議論するさまを「口角泡を飛ばす」と表現する
● 一向に
全然。まったく。「何を言われても―に動じない」
● 朗(ほが)らか
心にこだわりがなく、晴れ晴れとして明るいさま。
「―な性格」「―に話す」
この続きは、次回に。