「道をひらく」松下幸之助 ㊿+37
・ピンとくる
人間の身体の仕組みは、実に複雑にそして実に巧みにできている。
神のみがなし得ることかもしれないが、人工衛星の構造がいくら複雑
だと言ってみても、所詮、人体の神秘さにはかなわない。
見方によっては、宇宙の広大さ、神秘さが、そのまま人間の身体に再現
されていると言ってもよいであろう。
それほどに複雑で、それほどに大きい。にもかかわらず、足の先を針の
先でちょっとつついても、頭にすぐピンとくる。すみずみにまで神経が
こまかくゆきとどいて、どんなところのどんな小さな変化でも、間髪を
入れず頭に知らせる。だから機敏にして適切な行動もとれるわけである。
人と人とが相寄って作った組織。商店、会社、いろいろの団体。
一番大きいのが国家の組織。それらの末端をちょっとつついても、
すぐにピンとくるかどうか。間髪入れずの反応が示せるかどうか。
合理化といい生産性向上といっても、本当はこの間髪入れずの反応が
示せる体制から生まれてくるのである。本当の意義はこのピンにある。
おたがいに、もう一度思いをめぐらしたい。
会社も商店も、そして一番大事な国家についても。
● 巧み
「物事を手際よく、上手に成し遂げる様子」を意味します。
・政治という仕事
どんな仕事でも、それはみんなが共存してゆくためにあるもので、一つ
の仕事は他の仕事につながり、それがつながって世の中が動いている。
だから自分一人の都合だけで、その仕事を勝手に左右することは、
みんなに迷惑をかけ、道義的にもゆるされるわけがない。自分の仕事は
自分のものであって、同時に自分のものではないのである。
中でも政治という仕事は、一億国民に、直接のつながりを持っていて、
その良否は、たちまち国民の幸不幸を左右する。それだけに、政治と
いう仕事はもっと尊ばれ、政治家はもっと優遇されてよいと思うので
ある。
だが実際はどうであろう。先日のある放送で「大きくなったら何になる」
というアナウンサーの問いに対して、一小学生が「僕は喧嘩が弱いから
政治家にはなれない」と無邪気に答えている。
これを笑って聞く者は、自分で自分の幸福を葬っているものと言えよう。
政治という仕事が軽視され、政治家が尊敬をうけないような国が、繁栄
するはずがない。
この責任は誰にある。選んだ国民の側にあるのか。選ばれた政治家の
側にあるのか。
● 道義的
道義に関するさま。 人として行う正しい道に関するさま。
この続きは、次回に。